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黒い黒い空。

作者: 鷹野 砦

1人で学校から駅まで歩く道のりは、友達と話しながら帰る時に比べればとても長い。空が深い青色から鮮烈な茜色へと変わっていく街中で、僕はアスファルトのヒビを数えながら友達の事を考えていた。


僕は高校生となったこの春、一緒に入学した同じ中学出身の奴と友達として一緒に登下校していた。

友達――頭文字から仮にNと呼ぼうか――Nは中学校では目立たない奴だった。時代遅れのマラソン大会では中程の順位だったし、体育大会でも特別活躍したり失態を犯したりしなかった。成績もごく普通で、特別図書館に通っていたり同級生に混じって昼休みに騒いだりしなかった。性格は穏やかで優しい感じだった。この点は普通と呼べるのだろうか――人の性格にいわゆる普通という言葉を当てはめるのは違う気がする。


一方で僕はNに比べて個性的だろう。学校行事は大体積極的に活躍しようと意気込んで参加していたし、成績は数学が特別苦手で国語関連が特別得意。図書館が好きでよく本も読んでいて、運動はとても苦手だった。性格は.....どうだろうか。人にはよく「好きな事に対しての集中力が凄い」とか「人付き合いがいい」とか言われるけど、自分からすればそんな事は全くないと言いたくなる。自分はもっと違う自分なのだと主張したくなる。まあ、大半の人間からすれば他人からみた自分と自分から見た自分のギャップに悩むなんて当たり前かも知れないけど。


ともかく僕が言いたいのは「Nと僕は中学の頃に交流は全く無かった」という事だ。僕とNがたまたま進学先の高校が一緒で、他に顔見知りも居なかったから友達になったのだ。高校においてこの現象はそれこそ当たり前で、新入生だらけのクラスでは同じ中学校の生徒で結託して弁当を一緒に食べていた。連絡先を交換していた。もしかしたら僕は次々と友達を作っていくクラスメートを見て焦ったのかもしれない。だからNに声をかけて友達になったのかもしれない。それが本当なら、僕は実に浅ましい人間だと自分自身を軽蔑するだろう。


僕はNと友達になり、入学してからつい最近までのおよそ二週間を共に過ごした。でも僕はNの事をよく知らなかった。知らずに友達になって、知らずに傷つけた。


一昨日の帰り道、僕はNと話しながら帰り道を歩いていた。空の色なんて少しも気にしなかったし、アスファルトのヒビは存在すら意識になかった。ただNと話していた。

「なあ、N。今回のテストどうだった?」

「普通だよ」

「僕は数学の点数が本当に酷くてさ。赤点取っちゃいそうだったよ」

「そう」

「部活はもう入らないつもりなのか?今ならまだ帰宅部と認識されずに部活入れるぞ」

「別にいい」

僕とNはそんな感じの会話を日々繰り返していた。僕が一方的に喋り、Nが短い相槌を打つ。だからNは僕の事をよく知っていて、僕はNの事をほとんど知らない。僕はこの不公平な構図が嫌で、子供のように無邪気に「Nから何か話してくれたら」と考えていた......いや、子供のようにと言うのは違うか。僕は子供より無知で残酷で最悪だった。もっとゆっくりNの事を知るべきだったのに、僕は「友達が欲しい」というちっぽけなプライドでNの心を傷つけた。

「そう言えば、両親は入学式に来てたの?」

その言葉がNの表情を変えた。

僕がまず感じたのは喜びや達成感の類――Nの知らない表情を見れた事に対するプラスの感情。僕は一瞬喜んでしまって、Nはそれに気付いた。

「何だよ」

Nが暗い目で見つめてくる。

僕は笑ってしまっていた。そしてそれはフロントガラスに投げられた小石のように、仮初の薄っぺらい友情を粉々に打ち砕いた。

「お前ってさ、実はそんな奴だったんだな」

そこから先は僕は覚えてない。正確に言えば思い出さないようにしている。本当はNの長い話を詳細まで余すところなく覚えているはずなのに、人のことは傷つけておいて自分は傷つきたくないからと全てを封印した。


こうしてNは他人となった。


僕はNの目を茜色から更に変化していく空から見い出す。星の光も月の明かりも雲に隠された、真っ黒な夜空。僕は自分の事が特別好きでも嫌いでも無かったけれど、今はハッキリしている。僕は僕の事が世界で誰よりも嫌いだ。Nよりも嫌いだ。Nは僕の考えなんて上辺しか知らないだろうけど、僕は僕のことを誰よりも理解している。そして誰よりも軽蔑している。Nは仮初でも初めて出来た友達で、僕にとって両親の次に大事にしたいと思っていた人だった。それは異性だからと言うのは関係ない。同性でもきっとそうだった。言い訳じゃないけど、Nの事は友達として最高に友達だった。このチャンスを逃したらダメだ。きっと逃せば友達なんて一生出来ないと思わせる程の。


今の暗い僕を見れば、Nは何を思うのだろう。僕は電車を待つ僅かな間に意味もない想像をする。


本当に意味がないのは、この記録だろうけど。

※この短編は完全なフィクションです。実体験を元に書かれておらず、モデルも存在しません。

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