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Side history:2酒池肉林の末と寂しがりやの妖狐

エルフたちは野望を持っていた。その魔法の力で全ての土地を支配することができると、エルフの民のみならず全ての人がそう思っていた。


「もはや人に救いはない。全て焼き尽くしてしまえ。」


エルフの王ガンダールヴは言う。エルフの民は幸せだった、その力によって全てのエルフが望む限りのなにものまで持って生きている。

それでもガンダールヴはいつか恋をする。いつかガンダールヴが嫁を取ろうと思った時、今の生活に飽き足らず多くの娘が志願した。

人間として死ぬのなら。そう思って嫁に志願した人間の娘も、亜人の娘もいる。ただそれをガンダールヴはよしとしなかった、エルフの中で絶世の美女と讃えられた女までも彼はよしとしなかった。

エルフの国は着々と繁栄していったけれど、王は不機嫌なままだ。王は王国の繁栄と裏腹にその心をどんどん堕としていった。

そこへ志願したのは一人の娼婦。

王は全ての志願者に


「貴様どこで生まれた。」


と聞いたがいつも帰ってくるのは


「西の国。」


とか


「南の国。」


とか、少し頭のいい娘になると


「海の底の泡から。」


とか言う娘もいたが、そういう答えは王を満足させなかった。しかしその娼婦。


「キノコの森で。」


と答えたそうな。それには流石の王も笑わずにはいられなかった。笑っているうちに、こんな風に笑ったことが久方ぶりだということを思いついた。それで王はこの娘を嫁に迎えることを決めた。

結婚式は盛大に行われた、娘に入った女が娼婦だということは国中に知れ渡っていたが志願者として敗れた全ての種族の娘まで、ガンダールヴ王とその王国の猛威に虚言はないと確信していた。それまでにエルフの国は繁栄していた。

ところでキノコの森は古い伝承に出てくる森だった、全ての人間はそこで生まれてくるのだという。人々は山に入った時見かけることのある白い輪をエルフの踊った跡と語るがそれはキノコの胞子が偶然残したものであって。全ての栄華を手にした英雄もキノコの森で死んでいったという。そういう再生と、破壊の場所として語り継がれていた。


娘を嫁に迎えた、その後の王国の様子は想像に難くない。ガンダールヴ王は狂っていく。


「王様、あの血の色は美しゅうございます。」


「王様、あの絵の赤は画家に絵の具でなく血で描かせてくださいませ。」


「王様、私人形の森を見てみとうございます。」


「王様、私金色の室で情事をしたり酒を飲んだりしとうございます。」


王は娼婦の王妃を喜ばせようとあらゆる手を尽くしていった。戦争で功績を挙げた英雄たちの血で湯浴みの場を作ったし、国で最も美しい女を庭に吊るして眺めたし、国中の金を徴収してそれを溶かして塗料にし部屋を作った。

いつか王妃の言葉なくしても王は享楽にふけっていく。

目の見えない者を自ら作り出して踊らせてみたし、国民を酷使してどれだけ歩いても果てのない宮殿を作ったし、わざと内乱を起こしていくつもの町を廃墟にしたりもした。


しかし世にも稀なる美貌と淫奔さを持った王妃は決して笑わなかった。ただ一時、彼女は人間がエルフの国に攻め入った時、その城の者たちが血まみれになってガンダールヴ王のもとへ泣きついてきた時、笑った。


その凶行と時を同じくして、人間に支配されたエルフの国の中でエルフの民に情を移す人間もあった。 人間の王は、ガンダールヴ王によっていつか家もなくみすぼらしくなってしまったエルフの女を娶る。


もはやガンダールヴ王の淫行が頂点に達し、人々の不満も爆発しようとしていた時に最後の戦争が起こった。

敗北しその命を終わらせたガンダールヴ王はその王妃を逃す。

人間の王の王妃となったエルフは故郷の亡き跡を見て泣いた。

その横でまた家をなくした人間の娘が立っている。その娘は全てのエルフの民を殺してくれと人間の王に泣きついた。

人間の王の妃であったエルフの少女は処刑されることとなる。人間の王もまた、その力と野望ゆえにその心の多くを失いすぎた。


争いの果てに人間の王に泣きついた少女。それは人間に化けたガンダールヴ王の王妃だったことは語られていないが…


その者、金毛白顔にして艶やかな目を持つ。数ある魑魅魍魎、人の憎しみ悲しみを生む者の中でこれより恐ろしい妖怪なし。

その妖怪がこの世の不条理、凶行全ての源となっていることを誰も知らないまま。エルフの伝説は人間に加担したエルフの少女の優しさ。その愚かしさと、人間の現体制によって型どられ、語り継がれていくこととなる。世界の醜さは誰のせいでもない、たった一匹の妖怪のいたずらによるものだということは誰も知らない。


エルフの少女は今も人間の世界を見守り、妖狐はその生まれたキノコの森でまた。我々が語り継ぐに及ぶことのない時の中で蓄えたその憎しみを晴らす機会を、今か今かと待ち望んでいるという。


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