リリルアという少女
彼女はものを売る。体は小さいが、自分の身の倍はあるだろう風呂敷を背負っている、いつも形が違うので何が入っているのかそれを背負ってどこへ行くのか、道行く人は噂する。時には金まで賭けて、彼女の行く先を知ろうと楽しむ。そういう魅力のある少女だった、どこからやって来たのかすら分からないが、行く先の反面それは語られることがないので誰にも目は当てられない。砂漠を歩く、海を渡る、雪の吹きすさぶ高い山の尾根を越えて、果てには街を闊歩する。いつ死んだっておかしくない道を進むものだから、町から町へと噂が彼女の足に先行した時には、皆驚く。
「ああ、どうしたってそんな道を歩くんだ。女の子の小さい足で…なあ俺はいくらここの街に来るって賭けたっけ?そうかそんなものか、それじゃあ!」
人々の噂には金欲が先行する。たまには彼女が少女だからといって哀れみをかける人もいるさ、だけどお後は知れている。彼女がたどり着く街は酔っ払いで溢れることがほとんどだ、だから彼女は良い商人だ。そういう商人だ、歩けば金が動く、だから彼女も儲かる。ただ彼女は依頼の品は自身で選別して、どんな貧相な村へも最上級の品を届けるので…結局懐は潤わない。
さあ、そんな商人なのだが。名前は誰も知らなかったし、前述の通りどこの土地を故郷と呼ぶのか、知る人はさっぱりいなかったけれども、どんな町を歩こうにもその商人、生まれ故郷を歩くような足取りで歩いて
「私はここに帰ってきたかったんだ。やっとだ。」
そんな目をして商売をする。それも街に溶け込んでそれが人々を金蔓にするとは誰も思わなんだが、我に帰ると思う人がある。
「しかしその足取りと目、どこで名付けられるものか。」
一つここで特筆しておこう、彼女が目を引くのは足取りでも目でもない、こいつだけはどこの町の人もハッとさせられたそうな。その髪型だ。それはちりちりカラッとした朱ったい栗毛の混じるちぢれ模様。私もそれに理由の付けようはないけれど、誰も遠い故郷と家族を思い出した。そう聞くーー
例え故郷の消えようとも、家族を痛く憎もうとも、だ。それは風になびくような長さがあったわけではないが、ボロいローブのフードを取ると垣間見えるそれが、人の気に入った。
(というわけで著名な詩人が彼女を名付けようと試みた、これは自然なことと言えよう。そいつは虚ろな目をしてこう言った。
「ふと、はた、ほと、」。
そうして彼女を今は皆こう呼ぶ、小さな露天商
「リリルア・ララルア」
彼女を歌いたい…)