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Prologue
鐘が消えてしまったーー
それはずっと、誰かの心の奥深く、知らずのうちに甘い蜜のような音を立てていた。私はそれを悲しみと呼ぼう。それは人の感情につれて形を変えて、響きを変えて、また。それはまた何度も、何度も響く。そんな風でそれは彼女の胸の中、静かな場所、ただ一つ立っていたというのに。
そこは時計もなく、人もない、なんといっても言葉だってない真夏の雪化粧。「海」と拮抗する「波」の中で泣いていた鐘を彼女は落としてしまった。それは蝶々のようにふわりと、胸の内よりこぼれ落ちたのがつい最近のこと。
そんなこと、無意識の底で、誰にだって訪れる自然なことだけれど、これはただの、自然の物語。平凡と呼ぶには平凡すぎる、一人の少女の物語なのだ。これを私は続けよう、彼女の世界にまた鐘の音の響くまで、自然のままに。