表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

末っ子:いつきの幕間5

 末っ子:いつきの幕間5


 暗い地下の石床には、天井から一筋の光が差し込んでいる。

 キラキラと舞う埃の下で、いつきはしゃがみ込んで泣いていた。

 すん、すん、と鼻をすする音が、暗い室内で不気味に反響している。


「勇おにいちゃん…………春おねえちゃん…………」


 助けを呼んでも、誰もいないことは分かり切っている。


「秋おねえちゃん…………」


 しゃがんだまま顔を上げると、この地下室で唯一の出口である腐った木の扉が目に入った。もうとっくに試したが、あの扉は押しても引いてもびくともしない。蹴りつけてもみたけれど、幼いいつきの脚力ではまったく歯が立たなかった。


「うう……、おひざとおしりがいたいよう。だれかたすけて……」


 泣きながら血のにじんだ膝小僧をさする。暗闇で歩き回ってその辺の器具にぶつかってしまい、転んで膝をすりむいてしまったのだ。落ちてきたときにぶったお尻も、じんじんと痛い。誰もいない暗闇の中で、その痛みは心細さをぐんぐんと加速させていく。


「誰かぁ……」


 いつきは闇に慣れた目であたりを見回した。

 狭い室内には何か鉄製の器具が置かれている。いつきには何かわからないが、どれも真っ赤に錆びて使い物にならなくなっているようだ。

 その時、視界の端にポッと明かりが見えた。


「――!! だれ!?」


 焦点を合わせると何もない。


「なんで……?」


 いつきはそうっと立ち上がり、明かりが灯ったように見えた器具へと近づいた。

 木でできた机、いや、ベッドだろうか。普通なら枕になる部分に門のような器具が付いていて、その橋渡しをするように錆びた鉄板があり、中途半端な高さで引っかかっていた。


「…………?」


 不思議に思って真っ赤に錆びた鉄板に触ろうとしたとき。

 いきなりドンッ! と背中を押された。


「きゃあ!!」


 ギシリと腐った木のきしむ音がして、ベッドの上にいつきの小さな体が転がった。

 同時に、誰もいないのに頭上の鉄板がザッと音を立てて落ちてくる。

 いつきの細い首へ向けて。


「キャ―――――!!」


 ……ギシッと錆のきしむ音がして、それは首の寸前で止まった。

 真っ赤に錆びた鉄板が、目前にせまる。



 幼いいつきはその器具の名前を知らなかったが、勇二たちが見ればこう言っただろう。


 ギロチン、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ