File.25 第2ラウンド<2>
大祐は合図とともに沙紀の元へと走る。
(何か、今日はひたすら走っている気がする……………)
炎の前に来るとあまりの熱さに足が自然と引き返そうとする。
ゴオッ。
一瞬、炎が今までのそれより遥かに燃え上がり、熱さが増す。大祐が一瞬、腕で顔を覆うと同時に炎の一部分が消えさり人一人通れる程の隙間が出来上がっていた。
(行くぞ!!)
大祐は、迷わずその隙間を通り抜ける。大祐が通り抜けたと同時に炎は、再び燃え上がった。
「沙紀さん!! 大丈夫ですか?」
「何とか、大熊。悪いんだけど、起こしてくれない?」
「はい」
大祐は、なるべく傷に触れないように気をつけながら沙紀の体を起こす。そして楽なように自分の体にもたれかかせる形で座らせる。その時、改めて確認した沙紀の姿にぞっとする。出血は止まっているようだが首筋を流れ固まった血の量に言葉を失う。
いくら警官としてのキャリアが上の人とはいえ、自分より小柄の年下の少女がこんな深い傷を負っている様を見ると自分の無力さに腹が立ってくる。そんな大祐の苛立ちを感じ取ったかのように沙紀は言った。
「大熊、よくやったわ」
「いえ、自分は何も……………」
「私は、よくやったと誉めてるの。だから素直に受け取りなさい。あなたの能力は認められるわ。これで立派な特異課の一員よ」
「………………ありがとうございます。でも、自分の力って」
「あなたのその動物的な危険に対するカンよ。これであなたは我が特異課の危険探知犬の地位を確立よ」
「………………探知犬って。犬っすか」
大祐は嬉しいのやら悲しいのやら情けないのやら分らなくなってくる。
「あら、犬はかしこいし、何より人を裏切らないもの。人とは違うとても情の深い生き物よ」
沙紀の言葉に何か重いものを感じた大祐は戸惑う。
「何かあったんですか?」
沙紀は、大祐の問いには答えず、ふと何かを懐かしむかのように語り出した。
「……………昔ね、犬を飼ってたの。タロっていう白い大きな秋田犬。あなた、似てるわ」
「自分がですか?」
「うん。体は大きいけど、どこか小心者でケンカをすると尻尾と耳を下げてウロウロしてるの」
「それは……………誉めてませんよね?」
「でもとっても優しくて、私が落ち込んでるとすぐ寄ってきて側にいてくれたの。似てるでしょ? これからも、よろしくね。タロ?」
「はい」
(もしや、俺はこれからタロと呼ばれるんですか?)
そう思ってふと沙紀を見るとどこか安らいだ表情をしていたので、それもいいかと思い直した。そんなどこかこの場に似合わないほのぼのとしたシーンを展開している二人とは違い、皐月と田丸は殺気だった空気をまといながら自分のするべきことをしていた。
皐月は物陰に隠れながら先ほど転がした小瓶に向かい銃を撃つ。
パリッ。
見事命中したその小瓶からは甘い匂いが香る。その匂いに気付いた杉浦達は顔をしかめる。
「何だ、この匂いは………………」
「千夏、侵入者か?」
「ちょっと待って」
千夏が集中して確かめようとした瞬間、皐月は飛び出す。
「何だよ、お前は!!」
涼が力を発動する前に皐月は手をかざし叫ぶ。
「香に囚われし者たちよ、その香は汝らを捕らえる鎖なり」
皐月が呪を唱えると三人の体から自由が奪われる。自分の意志と反して全く動かない体に涼は苛立つ。
「チッ! 暗示かよ!! 千夏!」
「やってるわ」
千夏は暗示をとくために力を貯める。
「悪いな、お嬢さん。そうはいかないんだよ!」
田丸は、皐月と入れ替わり、千夏に向かい銃を撃つ。
「キャッ」
千夏は、銃から放たれた電流で意識を失う。田丸が放ったのは銃でではなく、スタンガンと銃を融合させた対能力者用の無力化武器。
「よっしゃ! 無力化成功」
その一連の行動を見ていた沙紀はインカムで外の班に命令する。
「結界排除完了! 突入可能です」
「ふざけるな! くらえ!」
千夏が倒れた瞬間、涼が無理矢理呪縛を解く。その怒りのまま能力を放った。
「いけない、皐月ちゃん、田丸、退避!」
そう沙紀が叫んだ瞬間、涼の力が爆発する。そして一帯には小さな暴風が吹き荒れた。そして、その風は行内の窓ガラスをすべて吹き飛ばし、おさまる。大祐は、とっさに沙紀の体を自分の体で庇う。そして風が止んだと確認すると急いで声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「………………何とか。皐月ちゃん! 田丸! 無事?」
「無事よ」
「何とか」
「良かった。犯人達は?」
沙紀が目を向けるとそこには千夏を抱えた涼が立っていた。
「まさか、寄せ集めの奴らがここまで力を持っているなんて驚いたよ。今回は、ここまでにしといたほうがいいだろうね」
「結局、あなた達は何者なの?」
「そのうち分るさ。ああ、マスターからの伝言。記憶がないなら言っても無駄かと思ったけど、一応言っておく。あの時の約束を忘れるな、忘れたらどうなるか覚えているなだってさ。じゃあ」
そう言うと涼は、再び風を起こし、この場から姿を消していった。
「何なんですか、今の」
「さぁ? 覚えてないもの。それより………………」
沙紀は、自分の周りの炎を消し去る。
「タロ。杉浦のとこまで連れて行って」
「了解です」
大祐は、沙紀をおぶると今回の主犯である杉浦の元へと向かう。杉浦には抵抗の意志はないようで手を上げている。
「バカなことしましたね」
「はい」
「普通に訪ねてくれれば良かったのに」
「貴女の周りはつねに警察の目がありましたから」
「緋奈姉の事だったら私が知っていることすぐにお話しましたよ。それに私があなた達の大切な誰かとは違うことなんて分かっていましたよね?」
「もちろん、知っています。ただ娘の最後の意志と自分が調べた事実が合わさった時、理解していましました」
「そう。でも、悪いけど私は九重 沙紀というただの警官よ」
「はい。貴女が無事ならそれでいいのです」
先ほどまでとはうって変わったような優しげな目つきの男に沙紀は、思う。
(これはただの始まりでしかすぎないのかもね)
「皐月ちゃん。犯人確保」
「いいの?」
「しょうがないでしょ? 犯罪は犯罪なんだから」
沙紀の言葉に皐月はためらいながらもその手に手錠をかけた。そして突入してきた鈴木警部に杉浦が引き渡されたのを確認した沙紀は、他のメンバーに撤収命令をかけようとした。
「さぁ、帰……る……わ……よ」
しかし、事件が解決したことにより気が緩んだのか意識を失ってしまった。
「沙紀さん! 誰か救急車をお願いします!」
「大熊! 入口に呼んであるからそのまま連れて行け!」
「了解です!」
鈴木警部の命令に大祐はそのまま駆け足で銀行入口へと向かって行った。沙紀をおんぶして駆け去って行った大祐の姿を見て皐月と田丸は笑みをかわす。
「さぁ、私達はこの場を警部さんの班に引き続きをして帰るわよ」
「了解」




