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特異能力犯罪課捜査ファイル  作者: 楓
第二章 嵐は突然に

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File.24 再会

 沙紀は自分の頭を撫でる優しい手の温もりを感じた。その感触がとても懐かしい。その手の持ち主を確かめようと目を開けるとそこには、自分の顔を覗き込み嬉しそうに目を細める女性がいる。


 年の頃は、二十代後半で腰まで伸ばした黒髪と目じりに小さな黒子のあるどこか妖艶な美女だった。


 「おや、お目覚めかい?」


 「あなたは………………誰?」


 「つれないねぇ、小姫はちょっと会わないうちにずいぶんと薄情になったじゃないか」


 「小姫? 誰それ?」


 沙紀は、床に横たえていた体を起こす。そして、気付いた。どうも、自分はこの女性の膝を枕にしていたらしい。


 (…………………誰? 分らないけど、どこかなつかしい)


 じっと自分の事を見つめる沙紀の目に戸惑いの表情を見て取り、その女性はそれまでの楽しげな表情から一転してとても悲しげで淋しそうな顔をしている。


 「可哀想な、小姫。こんなに心に傷をつけて。我らが守れなかったが為に」


 もしかしてこの女性は自分が記憶を無くしていることを知っているのかもしれない。そしておそらくは過去の自分と接点があったと思われる。だからこそ、自分の事をすごく憐れんでいるのだろう。


 「可哀想と言われてもあまりピンとこない。正直、皆が記憶を無くした私を可哀想だと同情するけど、記憶がないせいか自分ではそれ程可哀想だと思わない」


 「記憶がないからとそう言って己を納得させる姿は、十分可哀想だと思うが?」


 「確かにね。自分の家族の記憶もない上に一人ぼっちだった。でも、それは過去の話。今の私は一人ではないもの」


 「そう、それだけが救いだった。あの九重という男は信に足りる男だったからな」


 「あなたはパパさんを知っているの?」


 「ああ、知っているとも。小姫が生まれる前まで我らの主だった小姫の父の親友だからな。本人は知らないだろうが、我らはいつも見ておったさ」


 「我ら?」


 「ふふふっ。そうだったな、小姫は記憶がないのだったな。私の名前は華炎(かえん)、焔の一族に伝わりし宝刀に宿る火精さ。そして私の相棒があそこにいる炎輝(えんき)だ」


 華炎が指差した方に目を向けると柱に背をもたせたたずむ男性がいた。華炎と同じくらい長さの髪を一本にくくった切れ長な目をした180センチ以上はある長身の男だった。


 「………………そう言えばここ、どこ?」


 沙紀は首を傾げる。先ほどまでいた屋敷には似ているが全くの別の屋敷のようだった。周囲に人の気配はなく、先ほどまで目にした床一面に広がる血の海もない。


 「小姫はあいかわらずどこか暢気だな。ここは、我らが住まう異界。小姫は、奴らの力によって意識失った影響で自分の魂を過去へ飛ばしてしまった。それを我らが回収したのだ」


 炎輝は、溜息をつきしょうがない子だと首を振る。


 「仕方ないではないか。しかし、奴らと再び関わってしまった。否が応でも目覚めの時が来てしまうのかもしれない」


 沙紀が精神的にも大人になった時には、少しづつ記憶を思い出させていこうと九重とも話し合っていたというのに。何故こうも奴らの私欲のせいで自分達の主のみが辛い目に合わなくてはならないのか。


 「そうだ!! 戻らないと」


 沙紀は、大分意識が戻って来たのか自分のおかれていた状況を思い出す。


 「ねぇ、どうやって帰ればいいの?」


 「小姫が帰りたいと願えば帰れるさ。あの門を通ればいい、帰る前に言っておきたいことがある」


 「何? 華炎さん?」


 「あの男を救ってやってはくれぬか? 奴はただ小姫を守りたかっただけ。自分の庇護下に置き今度こそ守りたかっただけなのだ。今は亡き主の忘れ形見を」


 「やれるだけのことはします。あの人は方法を間違えただけ。それに自分の過去とも向き合わないといけない」


 「良い子に育った。それにどうやら少し思いだしたようだな」


 炎輝の言葉に沙紀は笑う。その笑みには家族の記憶がおぼろげながらにも形作り始めた喜びと、その家族はもういないのだという現実の悲しみが入り混じった複雑なものだった。


 「全てではないけれど」


 「今はそれで良い、必要な時に我らをお呼び」


 「ありがとう」


 沙紀は、二人にお辞儀をすると門に向かって一直線に走り出す。


 自分を待っている人々の所へ戻らなければいけない。自分達の仕事は、人々の笑顔を守ること。それは親しい人々の笑顔も含む。故に自分達は必ず生きて戻らなければいけないのだから。沙紀は、自分を待ってくれている人々の笑顔を思い出しつつ走った。

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