File.8 初出動
――――ピンポーン。
部屋のインターフォンのチャイムの音が鳴り、大祐は目覚めた。枕元の時計を見るとちょうど昼の時間である。結局、あの後大祐が皐月から解放されたのは、早朝であった。フラフラと歩く大祐とは対照的に皐月の足取りは軽く、明るい声でまたねと告げて去って行った。
(…………あんな酒豪と飲むのは、もう勘弁だ)
そして、ふらつきながらもやっとのことで部屋に帰りつき、寝付いたのが数時間前のこと。今日は非番なので思い切り寝るつもりだったが、誰かが訪ねてきたらしい。
――――ピンポーン。
チャイムを無視していたら、来客は、再度チャイムを鳴らしてきた。再び鳴った音に寝るのは諦めて何とかベッドからはい出る。大祐は、フラフラとしながらも、何とか玄関までたどりつくとチェーンと鍵を外し扉を開ける。
「はい、どちらさまですか…………」
「いつまで寝てるの! 携帯の電源くらいちゃんと入れておきなさい!!」
扉の外にいたのは、何と沙紀だった。いつものように叱責をされた大祐だが二日酔いのせいか頭がまだ正常に動かない。
(沙紀さん? ……何でだ?)
「…………お酒くさい」
「あっ、すいません。朝まで皐月さんと飲んでまして……」
「あぁ、魔の宴に出たのね。って、よく生きてるわね。あなた意外とお酒には強いの?」
「いえ、あまり。そこまで飲んだことはないので」
「皐月ちゃんの飲みで最後まで意識が保ててるなら十分よ」
「あの、ところで、沙紀さん。どうしたんですか?」
「出動要請が出たの。あなたはまだ実践投入は出来ないけど、見学くらいはさせておこうと思って」
「出動要請!!」
「そうよ、分ったらさっさと着替えて下に降りてきなさい。置いてくわよ?」
「はい!!」
ズキーン、大祐は思わず上げた自分の大声が頭に響き思わずしゃがみこんでしまう。
(痛い。これが世に言う二日酔いというものなのか!!)
「どうする? 見学はやめておく?」
沙紀は、低い声でうめく大祐を見下ろしながら問いかけてきた。
(こんな状態で連れて行ってもしょうがないし)
「いいえ、絶対行きます。下で待っててください」
大祐はそう言うと着替えるべく部屋の奥へと駆けていった。
「早くしなさいよ」
そう言い残すと沙紀は、下に待たせてある車へと向かった。大祐は、とりあえず側にあったスーツに着替えると沙紀の元へと急いだ。そして、入口の前に止まった車の中に乗り込む。
「お待たせしました」
「早いわね。…………前から言おうと思ってたんだけど、うちの部署は基本的に服装は自由よ。動きやすければいいわ」
「そうなんですか? じゃあ、明日からは、楽な服装に替えます。ところで出動要請って?」
「ああ、新宿署からの要請よ。今回のは事件現場の検証業務と証拠品の確認業務。先週末にあった爆発事故覚えてる?」
「確か、再開発地区のビルで規模は小さいながらも複数の爆発があった件ですよね。でも、あの地域のガス管が相当古いので工事中の事故の可能性が高いと新聞に出てましたけど」
「そう、最初は事故の可能性が高くて新宿署も事件とはとらえてなかったの。ただ、あのビルの周辺は再開発の為に解体工事が決まっていたからガスの供給を数ヵ月前に完全に止めていたし、そもそもここ数年テナントは入っていなかった。そこへ科捜研から微量の火薬の検出が報告されたの」
「なら普通の爆発事件で我々の出番ではないのでは?」
「本来ならね。ただ、見つかった火薬の量が微量過ぎたのと起爆装置らしきものも残っていなかった。起爆装置がないならどうやってその火薬に着火させたのか。起爆装置を完全に燃焼させたなら相当の高温と炎が上がって相当被害が出たはず。なのに、被害自体は軽微だった。だとしたら、私達の出番じゃない?」