File14.花<3>
茜の説明で彼等の沙紀に対する思いを知った大祐は新たな疑問が生まれる。そもそも杉浦夫妻は娘が亡くなっていることを知っていた。それなのに今さら事件を起こす必要があったのだろうか。
「茜さん達は緋奈姉の死を知っていたはずなのに、何で今さらこんな事件を?」
「去年の冬ぐらいかしら。一族に変な噂が流れたのよ。小姫様は生きていて東京で刑事をしているって」
「は?」
沙紀は茜の言葉に目が点になる。
「もちろん、小姫様ではないと私達は理解しているわよ。そもそも沙紀ちゃんの能力と一族の扱う炎は全くの別物だもの。けれど噂が流れたせいで噂の真偽を確かめる為に一部の人間が動きだした」
「私、仕事で茜さん達の一族の上の人間と面識があるんだけど」
脳裏に浮かんだのは、時枝 椿。一族のトップの側近である彼女に確認すれば噂がガセネタであることは分かるだろうにと沙紀は頭を抱える。
「もちろん、時枝の御嬢さんから一族に対して噂の真相を告げられてすぐにその噂はなくなったの。ただ今度は例の団体が私達に近づいてきたの。夫も最初は相手にしていなかったけど余りにしつこくて。何より彼等が沙紀ちゃんの存在を認知していることが問題だと思った」
「茜さん達が知っているのも本来ならアウトなんだけど、まぁ一族の伝手とやらは特別だろうし」
「えぇ、だから彼等は私達と同じ伝手を持つ者だと夫も考えた。だから娘の最後のお願いを叶える為にも逆に彼等の話に乗ることにしたのよ。ただ、時間が経つにつれ夫の様子が変わってきたのよ。理由は教えてもらえなかったけど」
悔しそうに顔をゆがめると茜は俯いてしまった。その様子に大祐達は顔を見合わて頷きあう。杉浦氏が何故この事件を起こしたのか本当の理由を彼女も知らないのだ。
「私達で直接その理由を確かめるしかないみたいね」
「そうですね。彼等が何故沙紀さんを亡くなった少女と同一視するのか。そして事件を起こしてまでそれを確認しようとするのは何故なのか。聞きたいことはたくさんあります」
「そうね。それにそこまで私にこだわるとしたら、学園の事件にも彼等が関わっている可能性もある。現場に戻りましょう」
「はい。茜さん、ご協力ありがとうございました」
「いえ、あまりお役には立てなくてごめんなさい。勝手なお願いなんだけど、夫を止めてくれると助かります」
「もちろん、それが私の仕事だし。緋奈姉のお父さんを止めるのは私の役目だと思う。そうだ、これを受け取ってもらえますか?」
沙紀はここに来る前に事務所に寄ってある物を持ってきていた。学園で見つけた例のオルゴールと手紙の束。
「これは? あの子の字…………」
「はい。宛名にある人にしか封を切れないようになっているので、全てお預けします。お父さんとお姉さんに渡してあげてください」
「ありがとう。必ず二人に渡します」
茜はオルゴールを胸に抱きしめると喜びと悲しみが入り混じった笑みを浮かべて静かに涙を流した。




