File14.花<2>
いつものカウンター席に沙紀達が座ると丁寧に入れられたコーヒーが出された。いつもだったらその香りに癒される沙紀だったが今日は逆に落ち着かなかった。
「どこから話をしたものかしら」
茜の言葉に沙紀は言葉につまってしまう。その様子を見て大祐は代わりに質問をすることにした。
「お嬢さんの願いを引き継ごうとされたとおっしゃいましたが、あなた方はいつ彼女の死を知ったんですか?」
「私達家族があの子の死を知ったのは、あの子が命を落としたその日よ。緋奈の最後の意志を精霊達が運んできてくれた。その頃は、私達夫婦は退院してやっと日常に戻り始めた頃だった」
「精霊ですか……?」
「そうね、そこから簡単にお話しましょうか。まぁ、信じられないかもしれと思うけれどそうなんだと思っていただければ……」
茜によると例の一族は六つの一族に分かれておりそれぞれ精霊と契約してお役目を全うする一族らしい。一族の人間の目には精霊の姿を視認することが出来るらしくその能力で国を守ってきた。そして自分達は焔の一族と呼ばれる火の精霊と親和性が高い一族の出身であるとのことだった。
「一般の方には視認出来ないので信じられないと思います。霊を見ることが出来る霊能力ともまた違いますから。まぁ、私達はその能力を持っているせいか霊能力に関しても高いので一般的な陰陽術なども使用出来ます。時代の移り変わりと共に色々な術式を取り入れて今に至りました」
「緋奈さんは、特異能力者として後天的に能力に目覚めたとあります。一族の能力は引き継がれていなかったんですか?」
「私達の一族も全ての人間が能力を持って生まれるわけではありません。今だと割合的には五分五分です。なので能力を持たない子は、逆に一般社会との橋渡し役としての役目を負います。能力がない人間の方が一般人から見ればエリートと呼ばれる職や立場にいる者ばかりですから、どちらがいいかと問われれば難しいかもしれません」
確かに一般社会から見れば能力を持たずに社会的にエリート層にいるほうが、羨ましいと思うかもしれない。
「なのであの子の目覚めた力が発火能力と知って驚きましたけど納得は出来ました。せめて能力が目覚めるのが早ければもっと身を守る術を教えてあげることが出来たのに。そもそもあの子は自分に能力がないことを不満に思っていてそのことが原因で家出を繰り返すことになっていたので」
「他のご家族に能力がなかった方はいなかったのですか?」
「いえ私達の周囲は能力を持つものばかりでした」
家族の中で自分だけが能力を持たないとなると思春期の緋奈にとってはかなり疎外感を感じる状況だったのではないかと大祐は推測する。きっと家に居場所がないと思い、家出を繰り返すようになった時に震災に合い、そしてその混乱の中で能力に目覚めて『学園』に行くことになった。
「茜さん、質問いいですか?」
「何かしら?」
「緋奈姉も茜さん達も誰を私に重ねているの?」
沙紀の純粋な疑問とそれを投げかけてくる真っ直ぐな眼差しに茜は申し訳なさそうな笑みを浮かべて答えた。
「勝手に重ねてしまって、ごめんなさい。あなたは、私達一族を率いていくはずだった跡取りである小姫様に似ているの。もう亡くなってしまったけれど。それが私達夫婦の失敗してしまったお役目」
「緋奈姉も会ったことがあるの? だって能力を持っていなかったならそのお役目に関わることってなかったんじゃ」
「えぇ、それが不思議なの。あの子は、いえ一族の誰もが小姫様の顔を見ることは許されていなかったはずなのよ。ご家族と側付きである人間達以外には」
茜の説明に大祐達は戸惑う。大昔ならいざ知らず、この現代で顔を見せないで生きていくのは難しいのではないだろうか。
「顔を見ることが許されないってそんな事あるんですか?」
「小姫様は、生後間もない頃にそのお命を狙われたの。その為、人前に出るときは狐の仮面を着けていらしたの。その仮面を取ろうとするやからはいましたけれど、小姫様の側には常にご契約をされた上位精霊の方々がおられましたので」
「年齢とか背格好が似ているだけで見守ってくれていたってこと?」
複雑そうな表情を浮かべている沙紀を見て大祐は慌ててフォローを入れる。
「最初のきっかけはそれかもしれないですけど、ただ単に妹分として可愛がっていただけなのかもしれませんよ」
「えぇ、私もそうだと思う。沙紀ちゃんにとっては少し不愉快かもしれないけど。その部分に嘘はないのよ、本当にあなたが大切で可愛かっただけ。あの子が『学園』で命を落としたと知った時に一族の伝手を使ってどんな生活を送っていたかを知ったの。それであなたが警察官になったと聞いてここにお店を開いたのよ」




