File.10 状況確認
「お疲れ様。おや、沙紀君まだ帰ってなかったのかい?」
「課長、お疲れ様です。報告書の作成やら何やらで。……もうお仕事は終わり?」
普段職場では、距離を置くように努めている娘のどこか甘えた口調に九重は微笑む。きっと何か相談したいことがあるのだろうと察し、手に持っていた書類をデスクにしまうと鞄を手に取り娘に帰宅を促す。すると沙紀は、自分のデスクに走り同じように鞄を持って戻ってきた。
「何かあったのかい?」
「最近、とある団体から手紙が来るの……」
「とある団体?」
歩きながら沙紀の説明を聞き終えた九重は、眉をひそめる。『学園』で起きたあの事件に関しては、緘口令が敷かれている。その為、いくら被害者の親達が立ち上げた団体でも情報は明かされていない。ましてや唯一生き残った生徒達の情報は、一番の秘匿事項だ。
「その手紙は、いつ頃から届くようになったんだい?」
「この間の船での事件が終わった後くらいから?」
あの事件の関係者で『学園』に関わる人物はいなかったはず。そもそも養子先の家庭も現在子供がいないことが条件だったはず。
「あの事件に誰か団体に関係していた人物がいたのかもしれない。どちらにしても情報を流している関係者がいそうだね。少し、調べてみるよ」
「パパさん。あの事件で亡くなった子達で家族の元へ帰っていない子達はいるの?」
「いや、時間はかかったが引取希望の親御さんの元へ戻っているはず。残っているのは引き取り手がいない子達ばかりで、跡地に作られた墓地で弔われている」
「戻っているの? …………ならなんで子供達を返せなの?」
「うーん、真実の究明を求めている親御さんで引き取りを拒否していているとかかな。あとは子供達の死を受け入れられない親御さんが本当に子供を返せと訴えているのかもしれない」
「…………失った命は絶対に戻らない。ただ、真実が明らかにされないと次に進めないのかも」
「そうかもしれないね。人の心は繊細で複雑だから、そう思い込まないと立っていられない人達もいるんだよ、きっとね」
「パパさんは、事件を知った時はどうだった?」
「怖かったよ。君が死んでしまうかもしれないって。大分取り乱していた私を鈴木警部が殴って正気に戻して現場まで引きずって行ってくれたよ」
「警部らしい」
その光景が目に浮かんだのか沙紀は苦笑する。今も娘が自分の横にいるのは、本当に幸運だったと九重は思う。『学園』で起きた事件は、あの事件と共通して謎が多い。もしかしたら、犯人は一緒の可能性もある。そうなると狙われたのは沙紀で他の人間達はただ巻き込まれてしまっただけかもしれない。そんな事はとても娘には言えなかった。
(あの脳裏に残る光景をまた見るかもしれない、それはいくつもの凄惨な現場を経験した自分でも恐怖を覚える一報だった。警部には感謝だな)
「パパさん、私近いうちに一度学園に行ってみようと思う。私なら何か気づくことがあるかもしれないし」
「一人で行くのかい? それは賛成できないな」
「ううん、みんなを誘ってみようと思う。皐月ちゃんなら私の能力がはじかれた理由が分かるかもしれないし、田丸ならあの厳重な警備を敷いていた学園の穴を見つけられるかもしれない。…………大熊は鼻がきくかも」
「そうか、みんなと行くなら行っておいで」




