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特異能力犯罪課捜査ファイル  作者: 楓
第二章 嵐は突然に

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File.9 空を見上げて

 地下の駐車場で車の清掃を終えた大祐が事務所に戻ってくると、事務所の人員が減っていることに気づく。田丸は、海里での仕事があると言って先ほど退勤していったが、皐月と沙紀はまだ残っているはず。

 

 「あれ? 沙紀さんは?」


 さっきまで自分のデスクで書類作成をしていたはずの沙紀の姿がいつのまにか消えている。デスクの上には飲みかけのコーヒーがあることから、まだ帰ってはいないようだ。


 「さっちゃんなら、風に当たってくるって屋上に行ったわよ」


 学園の事を話してくれた沙紀の様子を思い出した大祐は、少し心配になった。ポーカーフェイスが上手い上に、人に頼ることが苦手な面がある彼女が目に見えて落ち込んでいるように見えたから。


 「資料室へ行ってきます」


 「はいはい、ついでにこの上着をさっちゃんに持って行ってくれる? 今日は冷えるようだから」


 「…………了解です」


 皐月には自分の行動はお見通しだったようだ。沙紀の上着を受け取りこの場からすぐに退散することを大祐は選ぶ。その後ろ姿を見送りながら皐月はクスクス笑いながら呟いた。


 「いってらっしゃい。お兄ちゃん」


 屋上の扉を開けると防護柵に寄りかかって空を見上げている沙紀が見えた。ボーっと空を見上げて何かを考えては溜息をついている。


 (そりゃあ、大事な友人を亡くした事件だもんな)


 「沙紀さん、風邪引きますよ。はい、これ」


 「…………あぁ、ありがとう」


 心ここにあらずという反応だが、上着を受け取ると素直に着込んでいる。


 「学園の事を思い出すのは、まだつらいですか?」


 「つらいかと聞かれればもちろんつらい。でも、自分の中では気持ちの整理は出来ているはず。一度失った命は決して戻らない。私に出来ることは同じような目に合う人を一人でも少なくすること。そう思ってがむしゃらに前だけにつき進むことを考えてたけど、置き去りにされる人達もいるんだなって改めて気づかされた」


 「気づけたなら、これからは少し歩調を緩めるのもありじゃないですか? 自分達の仕事は時間が勝負なところもあるので、前につき進むというのは正しいと思います。でもつき進む中で違和感が生まれたならスピードを緩めて過去に向き合うのもありです。向き合う中で前に進む為の新たな何かをつかめるかもしれませんし」


 大祐の言葉に沙紀はこの新人が自分よりも年上で考え方も自分より大人なんだということを改めて認識する。


 「…………ねぇ、あなたはどうして警察官になったの?」


 大祐は同じように防護柵に寄りかかると同じように空を見上げて答えた。


 「死んだ親父が警官だったんです」


 「亡くなったの?」


 「はい。地震の時に、被災者の救助をしていて落ちてきたコンクリートの下敷きに」


 「ごめんなさい」


 「いえ、大丈夫です。葬儀には父が今まで警官として助けた人たちがたくさん来てくれて立派な人だったと。だから、子供心に思ったんです。父のように困っている人を助ける警官になりたいって」


  亡くなった父親のことを誇らしげに語る大祐を沙紀はうらやましそうに見ていた。


  「…………うらやましいわ。私は、私達学園の生徒には警官や役人になる道しかなかったから。ちゃんとそういう心ざしがある人間がつくべき仕事なのに」


 「しかなかったって、強制的にってことですか! そんなひどいです」


 「大熊はまだ分かってないから。特異能力者はね、一般人から見れば恐ろしい者に映るのよ。そんな人間を野放しには出来ないでしょ? それに生徒の大半はその力を持て余して親にも捨てられていたの。だから、学園を卒業して仕事に就くことで自分という存在を知らしめたい人間の集まりだった。まぁ、一部例外はいるわよ? 政府に無理やり親元から引き離される場合もあったみたいだし。…………多分あの団体の人達はそういったケースの親御さんだと思う」


 大祐は、愕然とした。特異能力に目覚めてしまった人間、特に子供達の現実に。


 「でも、沙紀さんもその例外ですよね? 課長がそんな人間なわけないし」


 「もちろん。パパさん達は、お友達を作りなさいって。あと、自分達を取り巻く環境を正しく学びなさい、それが君を守ることになるって。だから私は警察官になることを選んだ。だから時間がかかっても学園の事件を解決させる。それが死んだあの子達や残された人達の為にもなると思うから」


 沙紀は、立ち上がりもう一度空を見上げ目を閉じる。そしてゆっくりその目を開けると、大祐を見て微笑する。


 「さぁ、行くわよ! ちゃっちゃっと残務を片付けるわよ!」


 「はい!!」


 そう言うと沙紀は、大祐を置いてスタスタと行ってしまった。そんないつも通りの沙紀を大祐は小走りで追いかけた。


 (良かった。迷いが晴れたかな)


 互いの過去をほんの少しだけ話す。その事で大祐は、少しだけ沙紀と分りあい互いの距離が縮まった気がしたのだった。


 




 



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