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特異能力犯罪課捜査ファイル  作者: 楓
第二章 嵐は突然に

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File.7 時間が止まった人達

 沙紀のあの日の記憶は、門前で能力が使えなかったあの時で途切れている。沙紀を抱えて逃げたあの二人は、傷だらけになりながらも大きな怪我はなくエマージェンシーコールで呼ばれた課長達に保護されて無事だった。残念ながらあの日一緒にいた職員達は全員が遺体として見つかった。


 (結局、現場である学園に私が足を踏み入れたのは数ヶ月たってからだったし)


 学園で関係者を集めた葬儀も誰の遺体もなく執り行われていた。彼等の遺体はひどい損傷を負った上、ほとんどが高熱で焼かれてしまっていた。なのでそのまま家族に会わせられる状態ではなかったと記録にはあった。その上、自分達能力者の遺体は学園に入る時点で献体が決まっていた。


 (この献体が問題なのよね。普通の献体とは違って家族に戻される頃には完全に遺骨の状態だし。いつ返してもらえるか分からない)


 遺族の中には、今だ戻らない子供達の返還と事件の真相解明を求める団体を作って動いている人達もいる。最近、自分に送られてくる茶封筒の送り主だ。


 『学園における大量殺人事件の真相解明を求める会』


 学園は一般的には、特別な事情を抱えた子供達の教育施設として認知されている。おそらく障害者向けの自立支援施設として。そこで起こった大規模火災の犠牲になった子供達というのが一般人の認識だ。その為、複数の大物議員が理事として名を連ねている。


 沙紀は、その団体の存在は知っているが直接会ったことはなかった。あの日生き延びた自分達の存在は、正式な報告書でも名がふせられている。あの二人の元にも同じような連絡は来ているのだろうかと思ったがそれはないなと沙紀は首を振る。


 (あの二人は事件後、新しく戸籍を作り直してもらって過去の自分との縁を断ち切ってるもの)


 考えに煮詰まってきた沙紀は、スプーンでプリンをすくって頬張る。飾りの生クリームの甘さとほろ苦いカラメルソースのバランスが絶妙だった。


 (あー、美味しい。幸せ~)


 眉間に皺を寄せて難しい顔をしている沙紀を常連達は心配していたが、プリンを食べた瞬間ニコニコ顔で足をパタパタさせる姿を見てホッとする。常連客達は、沙紀が何者なのかは知らないが自分の娘や孫と同年代の少女が難しい顔をしているより無邪気にしている姿を見るほうが嬉しいのだった。


 「ふー、美味しかった」


 「今日もいい食べっぷりだったわね。こちらも提供する側として嬉しいわ」


 「今日もとっても美味しかったです」


 「ありがとう」


 沙紀が食べ終えたお皿をカウンターの内側から片づける奥さんの後方に以前になかった物を沙紀は見つけた。それは木の写真立てに飾られた少女の写真だった。


 「その写真って娘さん?」


 「…………えぇ。地震で行方不明だった下の子の写真。最近、遺骨が見つかったの」


 「ごめんなさい。無神経な質問して…………」


 「いいのよ。あの子が見つかってね、やっと写真を飾れたの。私達はあの子にとってあまりいい親ではなかったから。仕事と上の子ばかり目をかけてしまって。あの子が行方不明になって初めて気づいたの。あの子が親しい人や好きな場所とか全く知らなかった事実にね。元々、このお店を始めたのもいつかあの子がふらっと来てくれる気がして始めたの。あの子も沙紀ちゃんと一緒で主人の作るプリンが大好きでたまに作るところをジッと側で見てたわ」


 「変な質問、いや失礼な質問をしていいですか?」


 沙紀が表情を改め真剣な顔をするのを見て、奥さんも背を正した。


 「…………いいわよ。何が聞きたいの?」


 「…………例え遺骨でも帰ってきてくれたら嬉しかった?」


 「…………そうね。もちろん悲しいのが大きいけど、どんな形でも私達の元へ帰ってきてくれたのはホッとしたし、嬉しかったわ。これからは、あの子と一緒に暮らしていけるもの。私達の時間を動かす為にも必要なことだったと思う」


 「ごめんなさい。失礼なことを聞いてしまって。でも、何となく必要なことが見えてきました」


 「そう。沙紀ちゃんの為になったのなら嬉しいわ。きっと娘も喜ぶと思うわ、誰かの背中を押すことが出来て」

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