File.5 懐かしい味
「お疲れ様です」
パトロールを終えた大祐が事務所に戻るとそこには書類作成をしている田丸とコーヒーを飲む皐月の姿があった。
「あれ? 課長は外出ですか?」
「えぇ、緊急の会議で警視庁へ出かけたわ。さっちゃんは?」
一緒にパトロールに出たはずの沙紀の姿がないことに皐月は首をかしげる。その問いに大祐は、ハハッと笑うと途中で車から降ろしたことを報告する。行先は、おそらくあそこだろう。大祐の態度でピンときたのか、皐月もクスリと笑う。
「今日は、事件が続いたものね。補給は大事だわ」
「はい」
沙紀が向かったのは近所にあるカフェ・花。そこのプリンが大のお気に入りである彼女は、事件が続くとふらっと姿を消して食べに行くのだ。その行動を特異課では、補給と呼んでいる。沙紀曰くコンビニや他のお店のプリンを食べ比べた結果、花のプリンが一番美味しいと豪語している。
一度、何故補給にプリンなのか大祐が聞いたところ、懐かしさを感じると答えが返ってきた。本人も分からないが昔から何かあると誰かがプリンを食べさせてくれていた気がするらしく、学園時代にそれを聞いた今は亡き年上の友人がよく作ってくれていたらしい。
「そう言えば、またこれ届いてたわ」
皐月の手には、宛名に沙紀の名が書かれたA4サイズの茶封筒があった。その封筒を見てまたかと大祐も思った。最近、毎日のように届くその封筒に本人は溜息をついて内容を確認するとシュレッダーにかけている。特異課の面々も気にはなっているが本人は何も言わないので口出しが出来ずにいた。
「面倒なことに巻き込まれていないといいんですけどね」
皐月と大祐が茶封筒の扱いに頭を悩ませている頃、当の本人は楽しげにカフェへ足を踏み入れていた。そのカフェは、夫婦で経営している小さなカフェで馴染みの常連客が足繫く通う知る人ぞ知るお店だ。沙紀がそのお店を見つけたのは偶然で、事件続きで酷く疲れている時にふらっと入ったのが始まりだ。
「いらっしゃいませ。あら、沙紀ちゃん。いつものでいい?」
「はい、いつもので」
お店を切り盛りしているのは、奥さんで旦那さんはキッチンから出てこない。奥さん曰く、職人気質で全く接客に向かないらしい。その旦那さんが作るお料理やデザートは絶品だ。
いつものカウンターの奥の席に座ると沙紀は、少し高い椅子に腰掛け時折楽し気に足を揺らして待つ。その様子がご馳走を待つ幼子に見えて可愛いと奥さんや他の常連客の間では有名だった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。うぅ、美味しそう」
目の前に出されたプリンアラモードに目を輝かせながら、スプーンを手に取ると一口頬張る。
「美味しい。やっぱり、このプリンが一番…………」
「フフッ、ありがとう。ごゆっくりどうぞ」
そう言って笑う奥さんの笑顔が記憶にない誰かの顔と重なる気がした。以前、プリンを食べている時に起こるこの現象を友人に話した時、もしかしたら記憶から消えてしまった家族の誰かなのかもしれない。もちろん、全く知らない誰かなのかもしれないけれどと言ったら怒られた。その最後の言葉はいらない、きっと家族との思い出だから悲観的になるなと。
「懐かしい」
昼間に会った年下の彼等を見て何となく昔の記憶が呼び起されて彼女を思い出した。血と炎の中に消えてしまった大切な友人。彼女は、覚悟を持って戦っていなくなった。覚悟を持った彼女でさえ、命を落とすのが現実。だからこそ、彼等は覚悟を持つべきなのだ。
「まぁ、私が口を出すことではないけど」




