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特異能力犯罪課捜査ファイル  作者: 楓
第一章 出会いの春

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File.30 それぞれの願い

 検査入院を終えた沙紀が荷造りしていると、病室へある人が現れた。それは特異研の研究員であり医師でもある養母だった。


 「沙紀ちゃん。ちょっといいかしら?」


 「? ママさん? どうしたの?」


 「あなたにお願いがあって。彼女と面会して欲しいの」


 「彼女?」


 一瞬、誰のことか分からなかったがすぐに彼女だとピンときた。検査入院をしながらも事件の関係者への聴取の結果を把握はしていたから。犯人である彼女は、淡々と聴取を受けているがまるで感情のない人形のようだと報告書に記載されていた。


 彼が彼女達を守る為に奔走していたこと。そして、その結果命を落としたことも報告書の中にあった。きっと彼女は、事件を起こす前から絶望してしまったのだろう。自分の大切な人を失くしたことによって。それでも、守ろうとしてくれた彼の願いの為に自ら命を絶つという選択肢は選べないのだと沙紀は思った。


 (守る側と守られる側の願いは、交わることはないから)


 「私が話すことで、彼女が心を開くとは思えないけど…………」


 「沙紀ちゃんは、きっかけになればいいの。あとは、もう一人の子がきっとどうにかしてくれるから」


 「もう一人?」


 「えぇ、だからお願い」


 「分かった」


 沙紀は、荷物を手にすると自分のいた病室から彼女のいる病室へと向かった。





 目覚めるとそこは病院で、力の暴走を抑える為に特別性の腕輪が装着された結果、数日間意識を失っていたと説明を受けた。ただあの時、自分の能力は全く使用出来なかった。その代わり、自分の中で抑えつけていた黒い感情が噴出して、意識が無くなったはずなのに。


 (彼女は、言ってた。この石で抑えられなくなったら、自分は死ぬと。それを聞いてやっと彼に会えると楽しみにしていたのに)


 入院してから病室には、警察官が入れ代わり立ち代わり訪れては色々と質問された。自分の犯した犯罪を否定する気はないので、質問に淡々と答え続けた。すると退院後、拘置所へ移されて裁判を受けることになると説明を受けた。裁判の為の弁護士は、ある人達が手配をしてくれたと言っていたけれどあまり興味もなくて詳細はよく覚えていない。


 「何で、死ねなかったんだろう」


 「あなたは、死にたかったの?」


 突然聞こえた声に驚いて顔を上げると病室の入口に自分と同年代の少女が立っていた。自分と同じように腕輪を装着しているのできっと同じ能力者なんだろう。


 「彼はあなたに生きて欲しくて、命を落としたのに。その最後の願いを無視するの?」


 「私は、別に命を落としてまで助けて欲しくなかった! ただ、一緒にいたかった!」


 「そうね。自分の命と引き換えでも生きて欲しいというのは、彼の勝手な願い。もちろん、彼だって死ぬつもりはなかったはず。その点については、あなたには文句を言う資格はあると思う」


 見知らぬ少女の言葉に、今まで誰にも言えなかった本心が言葉として出てくる。もちろん、自分だって彼の行動が自分を思ってのことだとは分かっている。ただ、頭では理解出来ても心では理解できない。これまで病室にきた人間は、彼は立派だったと言うだけだった。彼は自分にとってヒーローだと称賛するだけで、否定をする人間はいなかったのに、彼女は違うらしい。


 「もちろん、彼の願いを否定するつもりもないけど。自分が死んでもあなたとあゆみちゃんには、幸せになって欲しかった。残される側のことを全く考えていないけどね」


 「…………本当に自分勝手だ」


 「えぇ、だからこそあなたには、前を向いて生きて欲しい。生きて人生を全うして彼に文句を言えばいいわ。自分達は、こんなに幸せになったってね」


 「…………幸せになんてなれない。もう一人ぼっちだもの」


 「いいえ、あなたにはあなたを大切に思っている人はたくさんいるのよ。本橋 亜佑美(もとはし あゆみ)さん。ねぇ、あゆみちゃん?」


 「お姉ちゃん!!」


 扉が開くと同時に一人の少女が駆け込んできた。その後ろには、中年の一組の男女が連れ立って入ってくる。彼の大切なあゆみちゃんが自分に抱き着いてきた。その体温と感触に自分の中の何かが温まる気がすると同時に涙が止まらなくなってしまった。


 「ごめんね。あゆみちゃん、ごめんね」


 「お姉ちゃんは、悪くない。…………もういなくならないで。お兄ちゃんみたいに……」


 あゆみちゃんの悲痛な声と言葉に自分も彼と同じことをしてしまうところだったと気づかされた。自分が嫌だったことをこの子にまた体験させてしまうところだった。


 「もう、一人にしないよ」


 亜佑美の目に生気が戻ったのを見届けた沙紀は、あゆみの両親へあとを任せると病室を後にした。そのまま特異研の入口へ向かうとタイミングを図ったかのように迎えの車が現れる。


 「あら、随分とタイミングがいいのね」


 「退院の時間は、聞いてましたから」


 運転席から現れた得意気な大祐の様子に沙紀は、思わず笑うとそのまま助手席へ乗り込む。車が走りだすと、大祐は気になっていた事柄について質問する。


 「彼女は、大丈夫でしょうか? 報告では、生きる気力を失くしているとありましたが」


 「もう、大丈夫よ。きっとね。彼への怒りも思い出したようだし、あゆみちゃん達もいるし大丈夫よ」


 「怒りですか?」


 「えぇ、みんな彼の英雄的行動を称賛しているようだけど、残される側にとっては身勝手極まりないでしょ?」


 「でも、彼にとってそれは…………」


 「もちろん、彼にとってはそれが唯一選べた最善策だった。ただ、もう少し視野を大きく持って欲しかったけど。これは、私達に残された課題ね。もう一度改めて伝えておくわね。私達が仕事をする上で絶対に忘れてはいけないことは、ただ一つ。私達は何があっても自分の命を優先してどんな手段を使用しても事件を解決させて絶対に生還する。彼女達のような思いを周囲にさせちゃいけない」


 「了解です」


 大祐の力強い返事に沙紀は、笑って言った。


 「分かっているならいいわ」


 

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