File.29 訪問者
「…………痛い。ここは…………」
沙紀は、まだ微かに残る頭痛の痛みと共に徐々に意識を覚醒していった。目を開けると視界に入ってきたのは、白い天井。最近、同じような天井を見た記憶がある。
「あぁ、特異研の病室か…………。ということは、あのまま意識を失った?」
体へのダメージを考慮して少しづつ体に力を入れていく。特に体への痛みを感じないので、ゆっくりと体を起こす。若干、意識がぼーっとするがこれぐらいは仕方ないだろう。
「事件は、どうなったの?」
「事件は、無事解決したそうですよ。犯人も他の特異課のメンバーも大きな怪我人は出ていないようです」
「誰?」
自分の疑問に答える声に驚き、いつでも戦闘態勢に入れるように態勢を整える。そして、一気にベッドのカーテンを引き開けるとそこには、予想だにしない人物がいた。
「時枝さん?」
「お久しぶりです。九重刑事」
「何であなたがここに…………」
「特異課の課長さんから我々に出動依頼が来まして、すぐに動けるのが私でしたので。念の為にあなた方の体に邪気の影響がないか確認しておりました」
沙紀の放った殺気に動じることなく、彼女はにっこりと笑みを浮かべている。彼女の名前は、時枝 椿。某一族の現当主の秘書。そんな大物が直接現場に現れるなんてこと通常ならありえない。そんな沙紀の疑問が表情に出ていたのだろう、彼女は苦笑交じりに答えた。
「本当にたまたまです。ただ、邪気の発生源であるあの少女も体に何の問題もありませんでしたし、九重刑事も問題はないかと。どうやって邪気が消えたのか謎は残りますが、まぁいいでしょう。こちらも、色々と忙しい時期なので」
「色々と忙しいねぇ。噂には聞いてたけどあれが邪気と呼ばれるものなのね。あなた方の領分ならしっかりとお仕事してくれない?」
「もちろん、その為に動いておりますよ。ただ、この地は我々からすれば見捨てられた土地でありますので一族の人間でも力を使える人間は限られてきます。人の手配は進めておりますので、その内ご紹介させていただく機会もあるでしょう。それでは、また」
そう言い残すと椿は、病室を出て行った。椿の気配が完全になくなってから、警戒をとく。
「相変わらずよく分からない女。まぁ、説明をしろと言われても私は何も出来ないし」
コンコン。扉をノックする音に沙紀が声を返すと扉が勢いよく開き、皐月が病室へと駆け込んできた。
「さっちゃん! 大丈夫?」
「うん、問題なし。少し頭痛がするくらい」
「そう、念の為に検査で明後日まで入院よ」
「えぇ、大丈夫だよ」
「駄目よ! これは課長夫妻からの厳命です」
「…………分かった。で、事件はどうなったの? 大熊と彼女は?」
沙紀を再度ベッドへ寝るように促すと皐月は、沙紀が気を失ってからの話をしてくれた。ただ、若干自分の認識とは違う点があるが。皐月達は、邪気と呼ばれる黒いもやの発生源である石を自分が破壊してから意識を失ったと言っているが本当は違う。自分が倒れたのは、石を破壊する前だ。ただ、大熊の説明ではそういう流れだったらしい。
(大熊は何かを隠している? もしかして守護霊がどうとか言ってたことと関係するの?)
「うん、大体の流れは合っている。それで、彼女はどうなったの?」
「あの子はまだ眠っている。意識が戻るまでには、あと数日はかかると思う。何しろはめたのがあの腕輪だから」
「あれは、一般人に着けたら駄目でしょ」
「今回は、緊急事態だから。大祐君の勘を信じて持って行ってよかったわ」
「そうね。少しは役に立つんじゃない?」
「じゃあ、もっともっと鍛えなきゃね」
「あー、私が復帰するまで訓練見てあげてくれる?」
「任せてちょうだい。特別メニューで鍛えてあげるから」
妙にやる気満々な皐月の姿にちょっとだけ大祐を不憫に思う沙紀だった。




