File.27 潜入作戦<10>
沙紀の守護霊は、髪を結んでいた組紐を解く。すると朱い組紐が一振りの刀へ姿を変えた。その刀身は、薄っすらと朱みを帯びている。彼女が一振りすると、その刀身から炎が生まれだす。
『まて! 華炎、刀は使うな! それでは、娘やこの船ごと滅することになる』
「一瞬で片をつける。もちろん、狙うのはあの石だ」
『お前にその加減が出来ると思わないから、使うなと言っている。せめて火球にしろ』
「火球でちまちまとあの石を狙えというのか! 時間がかかる上にそもそも奴らに気づかれる」
『俺があの小僧を起こす。奴はその為にあれを持ってきたんだろう』
「ちっ、早くしろ」
華炎は、刀を元の組紐へ戻すともう一度髪を結びつける。そして、手の平の上にいくつもの火球を作りだして、黒いもやの発生源を狙い打つ。しかし、黒いもやもその火球から石を守るように動き、沙紀を狙ってくる。
「あぁ、めんどくさい! こんなものさっさと滅してしまえばいいものを!」
相棒の舌打ちを受けたもう一人の守護霊は、意識を失った大祐の元へ向かって、その力を使う。少しばかり邪気に当てられているがそれを払ってやれば意識を取り戻すだろう。
『…………起きろ。このままだと全てが燃えてしまうぞ』
男の声が脳内に響くと同時に体の感覚が少しづつ戻り、大祐の意識が浮上する。目を開けると前方に宙を見つめる彼女の姿があった。
(そう言えば、さっきいきなり吹き飛ばされたんだっけ。何だ、あの黒いもや)
壁に頭を打ち付けたせいか、まだ頭がボーっとする。それにしても何だかとても暑い。額から汗が筋となって流れ落ちる。
(この暑さは、何だ? 彼女の力は封じられているはず…………)
彼女を取り巻く黒いもやが、塊となって飛んで行く。その先にいるのは、炎をまとった沙紀さんで……。その手の上には、いくつもの赤い火球が出来上がりそれを凄い勢いで投げつけている。火球自体はピンポン玉ぐらいの大きさの物だ。おそらくは能力封じの結界の影響で力が落とされているからだろう。火球で黒いもやを焼き払いながら、すり抜けてきた分を自分の炎をシールドにして身を守っている。
(助けなきゃ…………)
大祐は、自分の体をゆっくりと起こして怪我の具合を確認する。特に大きな怪我はないようで体を起こすことに問題はないようだ。その時、床に転がっている物に気づく。
「これは、腕輪。それも強化版…………。そう言えば…………」
現場に向かう前に装備を身に着けている時に、どうしてもこれがいるような気がしたことを思い出す。何故必要なのかは、自分でも分からなかったが持っていくべきだと感じた。迷っていると田丸さんが、一応持って行くと言ってくれた。
「それにしてもあの黒いもやは、何だ?」
『あれは、邪気だ。分かりやすく言えば、人の心の闇のなれの果て。あれを滅することが出来るのは、焔のみ。本来は人間ごと滅するのが一番早い』
「沙紀さんの守護霊さん? いやいやいや駄目ですよ。彼女が死んだら、沙紀さんは悲しみます」
『だからこそ、自分の相棒も苦心している。あの子の能力の枷を少し外して力を最小限に抑えてな』
「ってことは、今沙紀さんの体を動かしているのは、もう一人の守護霊さんですか?」
『そうだ。俺の見立てでは、あの娘は完全に堕ちてはいない。能力が封じられた結果、目的が果たせなくなり一時的に混乱しているだけだ。その混乱と憎しみを増幅させているのは、胸元のあれだ』
「黒い石のペンダント?」
黒いもやの発生源を目で追うと彼女の胸元にたどり着く。首にかかっているペンダントの黒い石がこのもやを生み出しているように見える。彼女の負の感情を発生源としているなら、もしかしたら。
「彼女の意識が完全に落ちれば、黒いもやはもう発生しない?」
『少なくともパワーは落ちるだろう。意識を落とすと同時にあの石を破壊することさえ出来れば、あいつが滅するだろう』
「…………分かりました。俺が彼女に腕輪を着けてペンダントと彼女を切り離します。その時に石を破壊してください」
『分かった。相棒には俺が伝える。一瞬でもためらうな』
大祐が頷くと彼の気配は近くから消えた。呼吸を整えて準備をする。そして、大祐は一気に彼女の元へダッシュした。彼女の右腕に腕輪を装着するとすぐに彼女の胸元からペンダントを引きちぎり天井近くへと投げた。
「お願いします!」
「任せろ、小僧! 引きはがしてしまえばこちらのものだ」




