File.27 潜入作戦<9>
腕輪を受け取り、彼女と大祐の状態を確認する。大祐は、壁のすぐ横に倒れこんでおりピクリとも動かない。黒いもやの発生源である、彼女は宙を見つめてなにやらブツブツと呟いている。少し距離を詰めようと歩を進めると黒いもやが沙紀を襲う。とっさにシールドを張ってやり過ごす。
「とりあえず、今は私の力のほうが上か。ただ、さっきよりも確実に威力は上がっているわね」
沙紀が距離を詰める程、彼女を守るかのように黒いもやはその力を増しているような気がする。
「困ったわね。私の火で何とかなるものかしら?」
襲ってきた黒いもやを打ち消す為に小さめの火球を飛ばしてみる。一瞬、火に包まれて消えたように見えるが、火がなくなるとすぐに復活する。
「…………効果なし。そもそも能力封じの結界は、維持されているから、彼女の能力とは別物?」
結界の効果で自分の力も落ちているとはいえ、消せない存在に気味の悪さを感じる。ぞわぞわとした感覚が体を襲い今すぐにでもこの場から逃げるか全てを焼き尽くしたいという気持ちが湧いてくる。
『皐月ちゃん、結界を消したらまずいかな?』
『駄目よ。この結界は彼女の能力を封じる為とさっちゃんの能力のリミッターでもあるんだから』
皐月の言葉に思わず溜息をつく。ただでさえ前回の事があるのだ。リミッターを解除したら、確実にこの船を沈める自信がある。
『その黒いもや? そんなに危険なの?』
『私が恐怖を感じて、全て消し炭にしたいと思うほどには危険。上手く説明出来ないけど、異能力とは違う得体の知れない存在な感じがする。魂に植え付けられる恐怖というか……』
『沙紀君。撤退だ』
『課長?』
『それは恐らく我々がどうにか出来る存在じゃない。彼等の領分だ。既に人を派遣してもらえるように手配はした。だから、沙紀君もその場を撤退するように』
『でも、大熊と彼女が…………』
『沙紀君! 撤退だ。大丈夫、悪運の強い彼ならどうにかなる』
『さっちゃん、腕輪を大祐の所まで飛ばせるか?』
『腕輪を?』
『そもそもそれを持ってきたのは、出発前に大祐が持って行ったほうがいいと言ってたからだ。きっと上手く使うさ』
田丸の言葉に納得は出来ないが、彼の能力ならもしやと思う。沙紀は、手に持っていた腕輪を倒れている大祐に向けて投げた。するとコロコロと転がり上手い具合に彼の手元へたどり着く。
『一旦、扉の外まで撤退します』
黒いもやを注視しながら、扉に向かって少しづつ撤退を始める。彼女に視線をやると黒いもやの発生源である胸元から黒い石がついたペンダントが見える。先ほど自分が投げた火球の爆風で胸元から飛び出たのかもしれない。
「あれは…………闇玉?」
自分の口から出た言葉に沙紀は戸惑う。自分はあんな物は知らないはず、知らないはずなのに言葉として出てくる。もしかしたら、自分の失った記憶にある知識なのかもしれない。
(あれは、何。自分は知っているはず。きっと、あれをどうにかする方法を知っている)
『沙紀君、早く撤退するんだ』
「思い出せ…………、あれをどうにかするのよ。二人を助ける為に」
考えれば考えるほど、頭痛が沙紀を苦しめる。頭が割れそうなほどの痛みに顔をしかめる。
『駄目だ。無理するでない。今はその時ではない。あとは私に任せよ』
突然脳内に響いた女性の声に驚きと懐かしさを感じる。自分はこの声の持ち主を知っている。
『さぁ、いい子だ。今は、お休み。少しばかり体を借りるぞ』
その言葉を聞くと同時に沙紀の意識は、落ちた。そして、沙紀と代わった何者かがゆっくりと彼女の体を動かす。
『さぁ、遊ぼうか。…………闇樹。我らが主に手を出した報いを受けさせてやる』




