File.26 本人の知らぬ新たなポジション
「…………タロ?」
「さっちゃん! 起きたのね。大丈夫? 気持ち悪いとかない?」
「…………皐月ちゃん? そっか、いるはずないものね」
朝になり、沙紀の着替えを持ち病室に来た皐月は、寝ぼけた声で目覚める沙紀を見て安心する。医師からは体調に問題ないとは聞いているがやはり心配だった。ベッドで身を起こし手で何かを探す沙紀の様子に、いつもより幼さを感じ、その可愛らしい仕草に思わず微笑む。
「そうだ! 大熊は? あのお馬鹿は大丈夫なの?」
「大祐君? 多少の火傷はあるけど、今も元気に働いているわよ」
「そう。頑丈そうで何より。ごめんなさい、捜査で忙しいのに問題を起こして」
「仕方ないわ。誰だって能力の暴走を起こす危険性は孕んでいる。その為のチームよ。それに国の為に働いているんだから、これぐらいは大目に見るべきよ」
「早く事件を解決しないと。せめてあの子だけは救わないと彼の死が無駄になる」
「そうね。さっちゃんの情報と捜査で分かった情報で大筋の事件の見立ては出来たわ。臨時で特異研の会議室を借りて捜査本部にしているわ。これから会議だけど出る?」
「もちろん!」
「ちょっと待って。そのままじゃ駄目よ」
ベッドから降り今にでも病室から飛び出しそうな沙紀を手で制し、皐月は着替えを手渡す。着替えを受け取るとベッド周りに備え付けられたカーテンを閉め、沙紀は着替え始める。
「そう言えば大熊の能力はどうだった? 確かめる為に一人で潜入させたんでしょ?」
「そうね、今のところギリギリ合格点かしら。あとは訓練でその精度を上げていくしかない思う。でも、私は彼の能力は、完全に目覚めなくていいと思うの。今よりちょっと精度が上がる程度でいい」
皐月の慎重な態度と言葉に沙紀も同意を返す。
「私もそれでいいと思う。あの固有の能力は完全に目覚めないほうが彼の為になる。下手に目覚めると命とか人としての尊厳がなくなる」
大熊の能力を示した資料の特記事項にあった、彼固有の能力。それは予知。今は自分に迫る危機を感じ取れる程度だけれど、その程度でいい。
「まぁ、良くて政府に保護されて一生監禁生活。下手すると犯罪組織や新興宗教の教祖様とか?」
「さっちゃんは、能力のことを彼に伝えるの?」
「まぁ、怖がらせない程度には説明するけど。特異課の危険探知犬ポジでいいのでは?」
「危険探知犬って、ちょっとひどくないかしら?」
「これぐらい軽いほうが大熊には丁度良い。あのバカ真面目な性格では気にしすぎて勘が鈍る。それだと自分の身を守る力が発揮出来なくなる可能性がある。まぁ、こっちでコントロールしてあげるしかないでしょ」
沙紀の言葉にそれもそうかと皐月も思った。
(あとは本人の努力と持って生まれた危険探知能力で生き抜いてもらうしかないわね)
シャッ。着替えを終えてカーテンを開け出てきた沙紀は、病室に備え付けられた洗面台で顔を洗い髪を整える。そして、軽く体を動かして問題がないか確かめる。
「よし! 皐月ちゃん、行きましょう」
「了解。捜査本部は、こっちよ」




