File3.出会い<1>
この春、警察学校を卒業した大熊大祐は、真新しい制服に身を包み感慨に浸っていた。今は亡き父と同じく警察官になるべく大学卒業後に警察学校へと進み心身を鍛えついに警察官というスタート地点に立てたのだと。しかし、それは一緒に辞令を待つ同期達とは別に学校長室へと呼び出されるその時までだった。
「大熊大祐巡査。本日をもって君を特異能力犯罪捜査課へと配属とする」
特異能力犯罪捜査課という未知の組織名を聞かされた大祐は必死に組織図を頭の中で展開する。そのような組織は現在警察には存在しない。存在しない組織に配属命令が出るのは何故なのか大祐は戸惑いを隠せないでいた。そんな大祐の様子を見て学校長は再び声をかける。
「大熊巡査、聞いているのか?」
「申し訳ございません。学校長、一つ質問をよろしいでしょうか?」
「何だね?」
「勉強不足で大変申し訳ないのですが、特異能力犯罪捜査課とはどのような組織なのでしょうか?」
「知らなくて当然だから謝る必要はない。この課は一般社会、特に東京以外の地域では極限られた者しか知らない組織だ。少し話が長くなるのでそこへかけなさい。説明しよう」
大祐は校長に勧められるままソファーへと腰を降ろすと特異能力犯罪捜査課。通称特異課の説明を受けることとなった。そして、この辞令こそ嵐のような過酷な生活への第一歩となった。
そこはビジネス街にある雑居ビル群の中にあった。地震の被害が最も少なかった区域の築50年以上はたっている3階だてのビルだった。周辺も同じような年数がたったビルばかりだ。その古いビル群の存在に本当に地震なんてあったのかと思う。そもそもあの地震は本当に都心の極一部を揺らしたものだったらしい。特異課という存在を知った今だとあれは本当に地震だったのか疑問だ。
(まぁ、俺ごときが理解できる範囲を超えている事象だから考えても無駄だな)
一つ溜息をつき気を取り直した大祐は、ビルの自動ドアを通りぬける。自動ドアの先は玄関ホールになっており、正面に階段と右手には管理人室らしきものがあった。
「ここだよな? …………でも入口に看板がないし…………」
(ここが本当に警察署なのか?)
確信が持てない大祐は入口で腕組みをし、深く考え込んでいた。その為、後ろから近付いてくる人物の存在に気付くのに遅れた。
ドスッ!!
大祐のちょうど腰のあたりに小さい衝撃があった。それと同時に若い少女の声が響く。
「邪魔!! 入口でボーッと突っ立てるんじゃないわよ!」
「しっ、失礼しました。お怪我はありません…………か?」
大祐は、自分にぶつかってきた少女に謝罪しながら目線を移すと思わず言葉を失った。そこには、自分より遥かに小柄なとびきりの美少女が立っていたのだ。
これが自分の教育係であり、相棒となる九重 沙紀との出会いだった。