File.19 牧師の正体<2>
「ただいま戻りました!」
「三人ともお疲れ様。早速、ミーティングをしようか」
「はい」
荷物を置いた三人は、課長に促され会議室へと向かった。室内へ入るとそこには田丸と鈴木警部が席について待っていた。
「戻ったな。海から上がった遺体の検視結果を持ってきたぞ」
「俺は、最近ホームから卒業した何人かに会いに行ってきた」
「じゃあ、早速会議を始めようか。大熊くん、スクリーンに警部からの資料を映してくれるかな」
「はい」
鈴木警部が持ってきた資料は、遺体の写真と検視結果だった。事前に聞いていた通り、かなり遺体の損傷が激しかった。身体中に暴行の痕が残っており、特に顔周りが酷い。
「身元の確認を引き延ばす為に顔を潰しているの? それにしては腕輪は付けたままって」
沙紀の指摘にその場にいる人間は大きく頷く。都内に住む人間なら腕輪が何かを示すかは分かるはずである。特に能力者を雇っている組織のメンバーなら知らないはずがない。
「腕輪の周りに若干の傷があったが生活反応がなかった。誰かが後から付けたんだろう」
「つまり彼の身元を早く突き止めさせたい誰かがいたってことですか?」
「まぁ、組織にも色々な考えや事情を持つ人間がいるんだろう? 潜入してる奴らもいるだろうし。ただ俺は今回はその線は薄いと思う」
田丸の答えに大祐は首を傾げた。人が死んでいるのだから捜査員から報告は上がっているだろうと思ったが、その線は薄いというのはどういうことだろうか。
「大熊、潜入しているのは大体が公安の人間だ。奴らが追う事件は、国に関わることが多い。その捜査の過程で人が一人死んでも動かない。動いたことで自分の立場が露見することの方がまずいからな」
鈴木警部の説明に大祐は苛立ちと怒りを覚えたが、グッとこらえる。人の死が関わっても立場上動くことが出来ない人間もいるということが心では理解出来なくとも頭では理解出来てしまった。警察官という職に着く以上、いつ自分も同じ立場になるか分からない。
「亡くなった彼に何かしらの思いがある人間が近くにいたのかもしれないわね。田丸、あなたが話を聞いてきた子達で何か知っている人はいた?」
「うーん、みんな普通に学生生活をおくっている子達が多かったな。数人連絡が取れない友人がいるとは言っていた。まぁ、生活環境が変わったばかりだとそういうこともあるだろう?」
確かに連絡をマメに取るタイプの人間とそうでない人間もいるので、全員が事件に巻き込まれたと考えにくいがもしかしたら中には彰久のように事件に巻き込まれた人間がいるかもしれない。
「その件については、今外部の人間に調べてもらっている。時間があればこちらで調べたけど、人手と時間が足りないから」
沙紀の言葉に思い当たる人物がいるのか、反応は様々だ。
「外部の方ですか?」
「さっちゃんの知り合いの情報屋さん。さっちゃん以外には法外な報酬をふっかける守銭奴ね」
「彼は沙紀君と同じ学園にいた子でね。腕は確かだよ。ちょっと癖はあるけれど」
「二時間で調査結果をくれるって約束したから、それまでこの件はステイ。課長、報告した牧師の件ですけど」
「あー、何を調査しているかは教えてくれなかったけど正体は分かったよ。厚生労働省と法務省の合同調査チームの人間らしい。あと沙紀君達が考えている通り、能力者だね」
「文部科学省じゃなくて?」
「そう。もちろん本名じゃないよ。ただ、面白い人ではあるかもね」
「面白い人?」
「苗字をひらがなにして逆から読んでごらん」
「しかやま…………まやかし? ふざけんな! あの牧師!」
沙紀の叫びに、大祐の脳裏にはニコニコと笑う牧師の姿が浮かびあがる。
(きっと自分達を監視しつつ、からかっていたのかもな。たちが悪い)




