File.16 子供達
二人は鹿山に見送られた後、駐車場へ向かう。鹿山の気配が完全に途絶えた場所へ来ると沙紀は、大祐に先ほどの行動の意図を確認した。
「どうして、私が名刺を渡すのを止めたの?」
「いや、何というか。彼が危険人物とは思えなかったんですが、何となく沙紀さんに近づけるべきではないなぁと。彼が写真を確認している時の一瞬の視線が気になって、その時に背筋がピリピリきたというか」
「視線?」
大祐は先ほどの鹿山の様子を思い出す。写真を確認している時、一瞬だけチラリと沙紀へ視線を向けた。その視線が何かを探っているような気がしたのだ。本当に一瞬の出来事で恐らく自分以外は気づいていなかった。
「私は気づかなかったわ。油断したわね」
「いえ、ちょうどメモを取っていて視線が下がっていた時でしたから。ただ、昔からなんですがこうピリピリときた時は何かがあるんです」
「……ふーん、確かにあなたの直感は優先すべきね」
「え?」
「何でもないわ。さぁ、一旦戻りましょう。念のために前任者の牧師についても調べましょう」
「はい。…………あれ?」
「どうしたの?」
「あそこにいる子供達なんですけど」
駐車場へ続く門から、車を覗き見る子供達の集団があった。コソコソと話しながら自分達の車を指さしている。沙紀は人差し指を唇に当て大祐に声を出すなと合図を送るとそっと子供達の後ろに立つ。
「私達に何かご用かしら?」
「わっ!!」
沙紀の声に驚いた子供達が驚きのあまりその場に尻餅ををついた。大祐はその子供達の顔に見覚えがあった。
「君達、この間スーパーでポスターを持ってきた子達だよね?」
「おじさん、僕らの事知っているの?」
「……お兄さんって呼んでくれると嬉しいな。この間、偶然見てね」
「あなた達はホームの子よね?」
「…………あんた達は警察の人なんだろう?」
リーダー格と見られる少年は警戒心を剥き出しにしながらこちらを見つめてくる。彼の後ろにいた少し年少の少女達も怯えた目を向けてくる。
「あら、盗み聞きは良くないわね」
「たまたま聞こえたんだ! 聞こえるように喋るのがいけないんだ!」
「そう。あなたには聞こえてしまうのね。今日は腕輪はしていないの?」
「教会ではしなくていいって、牧師様が言ってた。抑えすぎるのも体に良くないって」
腕輪とは、政府が子供達や能力の行使を希望しない人々にむけて配布している能力の管理デバイスである。能力の強弱にもよるが能力レベルが低い人間であれば能力を抑え込んでくれる。それと同時に何処にどんな能力を持っているかを政府が監視する為のツールでもある。能力者にも人権があると訴える団体からはすこぶる評判が悪いが、実際に能力を持つ人々からは一定の理解が示されている。
「そうね、確かに体に悪影響かもしれないと言われているもの。特に体が成長過程にある子供達にはね」
「姉ちゃんも知っているのか? この腕輪のこと」
「えぇ、私達もつけているもの。ほら」
沙紀はジャケットの袖口を少し上にあげると子供達に見せた。そうするとさっきまで自分達のことを警戒していた子供達の緊張が少しとける。
「姉ちゃん達、警察の人なんだろう? あゆみを探してくれよ」
「あゆみというのは、あのポスターの子のことかしら?」
「そうだよ! 大人達はちゃんと探しているっていうけど、他のホームの奴らが……」
少年は沙紀達に何かを訴えようとしていたが、急に黙り込む。
「君達、お客様にご迷惑をかけてはいけませんよ」
「鹿山牧師。別に迷惑でもなんでもないですよ。彼らは、私の落とし物を届けてくれただけですから」
沙紀は胸ポケットからポスターを取り出すと鹿山に見せる。すると鹿山はにっこりと笑顔を浮かべると子供達へ声をかけた。
「さぁ、おやつの時間です。行きましょう」
「……はい、牧師様」
「それでは我々は失礼します。君達もありがとう。今度お友達のお話も聞かせてね」
「うん! 絶対だよ!」
「えぇ、約束よ。じゃあ、行きましょう」
子供達は、手を振ると教会へと走っていった。その後を鹿山が小走りで追いかけていく。子供達と牧師の日常という平穏なワンシーンを見せつけるように。
「あの人、確かに要注意人物かもね」




