File.10 ディスカッション
特異課に戻るとそのまま会議室へと二人は向かった。ノックをして中に入るとそこには課長と田丸と皐月が待機していた。
「よぉ、新人初めての現場はどうだった?」
「まだまだ、勉強不足だなと思いました」
「誰だってそうよ。こればかりは場数を踏むしかないもの」
大祐が溜息をつく姿を見て二人は笑った。先輩二人のその姿に少しだけ心が軽くなった。沙紀はやれやれとばかりに首を振ると真っ直ぐに課長の元へ向かっていった。
「さぁ、会議を始めよう」
課長が議長席につくとコの字型に配置された席の右側に田丸と皐月、左側に沙紀と大祐が席に着いた。
「まずは、警察から送られたきた資料がこれだ」
課長が手元のリモコンを押すと壁に備えつけられた大型モニターに今回の事件の概要と被害者の情報が映し出された。
「被害者はホームレスで本名は不明。周囲の人間からは、昭一と呼ばれている。かなりの情報通で度々警察も捜査で情報提供を受けている。普段は特異課のあるこの地区を根城にしているが、その日はたまたま火事があった地区のホームレスの知り合いに会いに行った帰りだったらしい」
「つまりたまたま事件に巻き込まれたと。何か気になるな」
「でも、彼等って結構縄張りを気にするでしょう? いくら人がいないからって勝手に知らない建物に入るかしら?」
資料に目を通した田丸と皐月は被害者の状況に疑問を持ったようだ。
「本人は思いがけず遅くなったので、廃ビルで夜を明かして帰ろうと思ったらしい。現場は再開発が始まって周辺にいたホームレスは他の地区に移動したのを知っていたと」
「その昭一っておっさんは、爆発時に不審者とか目撃してないのか?」
「爆風で飛ばされた時に軽く頭を打って記憶が曖昧だと報告されている。体の回復後に再度聴取を行うとなっている」
「被害者の聴取と周辺捜査は私達が受け持つより、鈴木警部達にお願いしたほうが早いかと思います。我々は同様の事件が過去・現在に起きていないか。それと彼等に照会をしなければいけません」
「彼等か」
「念の為です。普通の能力者であればこちらで把握は出来ますが、彼等の身内に関しては我々は詳細な情報を持ち得ませんから」
眉間にしわを寄せ重い溜息をつく沙紀と課長に大祐は首を傾げる。皐月達に視線をやると二人も同様に苦い顔をしている。
(課長達にこんな顔をさせる彼等って何者だ?)
「あの……彼等というのはどなたでしょうか?」
「…………そうね、特異課にいる限り彼等とは遅かれ早かれ接触するでしょうし説明するわ」
「お願いします!」
「その前に特異能力者登録制度については知っているわよね?」
「はい、政府が作った能力者の把握と監視の為に作った制度です」
「そう。実はその制度とは別に特例名簿が存在しているの。その名簿に記された人間による破壊行動や傷害・殺人について、警察は一切の捜査・逮捕の権限を持ち得ない。その名簿に登録された人間に関わる事件はトップシークレットであり、その事件についてはある企業に報告するのみとなっている」
「何ですかそれ! そんな事許されるんですか?」
「腹立たしいことにね。彼等は大昔から当時の政府と手を組みこの国の裏側で暗躍してきている。その彼等というのがあの有名な企業・天宮グループ」
「日本を代表する大企業じゃないですか!」
「一応、彼等が能力を使用するのは一族に課せられた使命に限るらしいけど。信用は出来ないわね」
大祐は、特例名簿が存在する事に加え、その特例対象が自国を代表する大企業ということに驚きを隠すことが出来なかった。
「まぁ、企業に属する人間がすべて彼等の仲間ということではないよ。あくまで上層部に属する人間達だけだね。特権階級ということでなかなか扱いが難しい。彼等の窓口に関しては、天宮家のご当主殿と彼の腹心の部下の方が担当している。年齢に関しては君達に近いよ」
「明日の朝に時枝さんに確認を取ります」
「うん、沙紀君はその後は大熊君を連れてセンターに情報確認に行ってくれるかな?」
「はい」
「田丸君と藤田君は現在こちらが把握している発火能力者の状況確認をお願いできるかな?」
「了解です」
「じゃあ、今日は解散です。みんな、お疲れ様」
「お疲れ様です」




