File.12 左京
大祐の運転で沙紀は、お店へと向かった。大祐が来るまでは、電車での移動をしていたが運転係である彼が来たことによって捜査中の移動手段が変わった。沙紀にとっては正直とてもありがたい事で、特に今回のように特別な格好をしなければならない場合は心の中でいつも以上に感謝をしている。
沙紀のナビで案内されたのは、歌舞伎町の外れにあるオフィス街だった。高層ビル群ではなく昔からある年代物のビルが建ち並ぶ地域。近くのコインパーキングに車を止めると沙紀の案内でお店へと向かう。オフィス街の中でも路地の奥まった先にある店舗が目的のお店だった
「ここよ。はぁー、視線が痛い」
ぼやく沙紀を横目で見た大祐は、無理もないと思う。先ほどから地元の住人や近くの会社に勤めているであろう人々から好奇の視線を送られかなりナーバスになっている。
店の前に立ち、大祐は店の外観を眺める。いたって普通の喫茶店という感じがした。窓はお洒落なステンドグラスがはめ込まれているからレトロ喫茶の部類かもしれない。
店の名は、ローズ。
お店を外から観察する大祐の横でしばらくそれに付き合っていた沙紀だったが、ついに耐えられなくなったのか視線から逃れるべく店の中へと入って行く。扉の上にあるベルが鳴ったのに気がついた大祐は慌ててその後に続いた。
お店の中は暗めの照明とアンティーク調の家具が配置されていて、重厚な雰囲気が流れている。店内BGMもクラシックで、客の会話を邪魔しない程度のボリュームで流されいる。ちらほらとお客もいるが、一度こちらに視線を寄越しただけですぐに視線をずらす。客層的には年齢層は高めかもしれない。
「いらっしゃいませ」
レジスターの前で案内を待っていると現れたのは、足首まであるスカート姿のメイドだった。黒い上等な布地で作られたメイド服でその落ち着いた佇まいは、本職の雰囲気を感じる。
(本物のメイドって感じだ)
「左京はいる?」
「はい、奥でお待ちになっています。どうぞ」
そう言ってメイドは、二人を奥の個室へと案内する。
「お客様がいらっしゃいました」
「ありがとう。お茶を持ってきてください」
「はい」
メイドはお辞儀をすると部屋から出て行く。
「お久しぶりですね? お嬢様」
「…………その呼び方は、やめろと言っているでしょ。左京」
「いいじゃないですか。僕にとって貴方は仕えるべきお嬢様なんですから」
「あなたのその言葉程、信じられないものはないけどね」
ニコニコと笑いながら執事姿の男は、沙紀達に椅子に座るようにうながす。
(本当に執事だし)
目の前にいるのは、自分より少し年上の男性。黒いモーニングコートをまとった茶色の髪に細い銀色のフレームの眼鏡をした紳士と呼ぶに相応しい雰囲気を持った人物だった。
「彼が大熊君ですね?」
「はっ、はい。って何で自分のことを?」
「クスクス。僕の職業は知っていらっしゃるでしょう?」
「あ、そうでしたね」
「一度お会いしたかったんですよ。この気難しいお嬢様のバディに収まっている人物とはどんな人かと」
「そうですか」
「想像通りの人物で納得です」
「左京! 本題に入りたいんだけど」
「まぁまぁ、お茶でもゆっくり飲んでから仕事の話をしましょう」
コンコン、ガチャリ。
ちょうど先ほどのメイドがお茶を乗せたワゴンを持ってくる。左京は、そのワゴンを受け取ると優雅な手つきで二人に紅茶を入れてくれた。
「お嬢様には、こちらを特別サービスで」
その言葉でもしやと思う。そしてティーカップの横に置かれたの物を見て思わず笑ってしまう。 大祐の予想どおりそこに置かれたのはプリンだった。




