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特異能力犯罪課捜査ファイル  作者: 楓
第二章 嵐は突然に

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File.27 遠い過去

 今は遠い過去の夢を見ていた。優しい姉の手が自分とタロの頭を優しく撫でてくれている夢。残念ながら顔や名前は思い出せないけれど、確かに自分にとって大切な姉だと分かる。庭先で遊ぶ自分とタロをいつも優しく見守ってくれた。屋敷の縁側ではまだ幼い双子の弟達と両親の姿もあった。


 「お姉ちゃん」


 「何? …………ちゃん」


 姉が呼ぶ自分の名前だけが聞き取れない。名前の部分だけノイズが走るせいだ。


 「お姉ちゃん達は、死んでしまったの?」


 その言葉を口にしたとたん強く風が吹きつける。そして目の前にいた家族達の姿は消えてしまった。側にいるのは、タロだけ。悲しみで胸がキュッと締め付けられ思わずタロに抱き着く。その温もりにしがみつくとタロは優しくワンと鳴いて自分の頬をつたう涙をなめとってくれた。その温もりを感じ取りながら沙紀の意識は夢の世界から現実へと覚醒した。


 「あぁ、起こしてしまったかい?」


 目を開けるとそこには心配そうに自分の顔を覗き込む九重の姿があった。自分が寝ているベッドサイドにある椅子に座って付き添ってくれていたようでその手にはタオルが握られている。おそらく、涙を拭ってくれていたのだと思う。


 「パパさん。ここは特異研?」


 「そうだよ。出血が酷くて輸血が必要だったんだ。一週間は入院だ」


 「事件は終わったの?」


 「あぁ、杉浦氏を逮捕してこの件は決着。銀行強盗に加担した面々も逮捕。裏社会の人間だから余罪が山ほどあるって警部が言っていたよ。ただ、あの場を逃げ出した彼等はどこの誰かも分からないけどね」


 九重の説明に予想してた通りの決着がついたと沙紀は納得した。彼等を逃してしまったのは失敗だけどあの口ぶりでは今後また相対する機会はあるだろうから、その時に逮捕すればいい。


 「…………少しだけ記憶が戻った。本当にぼんやりとだけど。私は彼等が探していた彼女で間違いないの?」


 「本当は思い出さないままでいれてくれたほうが良かったんだけどね。私達は君に新しい人生を生きて欲しかった。すまないね、これは私達の勝手なエゴだ。私達の娘として強く生きて欲しかったんだ」


 沙紀の左手をギュッと握り九重は、寂しそうに笑う。その大きな手を沙紀は同じように握り返す。


 「パパさん、ありがとう。パパさんとママさんのおかげで、記憶が少し戻っても憎しみとかそういったもので心は支配されていない。あるのは家族を失ってしまった悲しみだけだよ。あとは、刑事として奴らを追うっていう決意が固まった。九重 沙紀としての人生があるからこそ立ち上がって前に進める」


 「私こそありがとう。退院したら事件についての資料を見せよう。大丈夫、君には私達やあの方、そして仲間達がいるんだから」


 「そう言えばみんなは?」


 「藤田君と田丸君は事件の後始末。大熊君は、待合スペースで君の警護中」


 「タロって、本当にタロだ」


 嬉しそうに笑う沙紀の姿を見て安心した九重は、握っていた手を離すと頭を撫でて言った。


 「さぁ、ゆっくり眠りなさい。大丈夫、ここには私もタロ君もいるから」


 「パパさんまで、呼び方うつってない? …………おやすみなさい」


 「お休み、よい夢を」


 沙紀が完全に寝付くと部屋に人ではない気配が現れる。その正体は分かっていても根源的恐怖は拭えない。彼等がいかに人の味方であってもやはり人ではない存在だから。


 『あの若者まで巻き込むのか?』


 「はい。親の勝手な願いに巻き込みますが、彼等はこの子のよい導き手にも楔にもなるので」


 『まぁ、彼等がどうなろうと我らには関係はないがな。我らはどこまでも主と道を同じくする』


 「あなた方がそうだからこちらは別の手段を講じる必要性が出てくるんですけどね」


 『しばらく気をつけよ。どこに奴らの手の者が潜んでいるか分からないからな』


 言いたいことだけ言ってあの方は去って行った。まだ、現れるのが彼ならば話が通じるが彼女の場合は思考が極端なところがあるので気を付ける必要がある。


 「今後奴らがどう動くか。見通すのはなかなか難しいだろうな」


 

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