プロローグ
住宅街に銃声が轟く。何発も、何十発もその音は重なり、響き、多くのものを傷つけている。街の中心にある一際大きな塔のような建物は敵軍に占拠され、そこからは大砲が放たれ全てを破壊しつくすかの如く爆音が町全体に広がって―――。
その絶望が奏でる音は、とても聞いていられるものではなかった。塔の下にうずくまる俺には、それらが一層大きく感じられた。思わず目を閉じ現実から逃れたくなるほど。
不意に吐き気がして手で口を押えたが、こらえきれずにそのまま吐いてしまった。
「―――。」
この音色に全てをのまれ、かき消される。普段聞けば耳をつんざくような民衆たちの悲鳴でさえも、今この音の前では儚いものにすら聞こえる。
「きゃぁっ!!」
背後から悲鳴が聞こえた。この轟音のなかでも聞こえるということは相当近いのだろう。
「どうか・・・どうかこの子だけは・・・!」
発言から察するに、敵軍に見つかった一般人がこどもをかばっているようだ。
こんな状況下で全てから逃げ、主観を捨て客観的に物事を考える自分にはもはや嫌気すらささない。
そいつはその言葉には応えず、銃を構える音だけが聞こえた。
「そ・・・そこの軍人さん・・・」
どうやら俺を発見したらしい。だが俺は振り返ることができなかった。
「この子を・・・助け」
震えるその声が俺にすべてを伝える前に、一つの銃声と共に儚く散った。
「おかあぁぁぁあん!!!」
子どもが泣き叫ぶ音も、聞こえた。聞こえたが、俺にはできなかった。泣き叫ぶ声が、母を追うように散った。
―――直後、背後の銃声は俺の心臓を突き刺した。




