霊害請負業 有限会社 アザーサイドコンタクト その五
近所の月極駐車場にて――。
猛雄が不承不承に顔を歪めながらもバンの運転席に着いた。
「まったく、なんでとうこっ――キツネ君まで」
「父さんが許してくれたんだからもういいじゃん」
愛子が駄々っ子然とした声を上げ、それに保羅が続く。
『次に頭骨と口にしたら喉笛咬み切ってやる!』
『お前はオオカミじゃないだろう、キツネらしくしておいてくれ』
『人間の貴様が何をもってして狐らしさを語っているのだ』
『分からねぇよ! ともかくお願いだから大人しくしててくれ』
志空と保羅が二合目を交わした事を知らない猛雄が言った。
「上から順にから行きましょう。一枚目の住所のナビ設定をお願いします」
猛雄はエンジンを掛けつつ、依頼書のファイルを助手席の志空に手渡してきた。
志空はカーナビのガイダンスに従って手際良く住所を入力する。
「住所なんて教えてくれるものなんですね?」
「不安で夜も眠れなくなったら、人間なんでも差し出すモノです」
志空の質問に猛雄はさくさく答えて、駐車場の出口に向けてバンを回し始めた。
「何度も確認するようで申し訳ありませんが。一人称は『私』に統一。敬語と偽名と〝さん〟付けは基本徹底。そして、リーダである私の指示絶対従う事。何より、個性を出さないように気を付けて下さい。幽霊は元より、依頼者の対応にもです。後腐れなく終えるにはそれが最善策です。現場に着くまでに会話をして馴れて下さい」
「この格好も、その予防の一部なんですよね?」
中部座席から、異議を匂わせる声音で仁美が控え目に手を上げた。
「その通りです」
そう言い切った猛雄も、志空と仁美も、電気・ガス工事士と言った風体の作業帽と作業着の上下に身を包んでいる。
仁美などは髪を上着の中に入れろと指示され、さらに首にはタオルを巻いているので、その背丈と相まって後ろからは男にしか見えなかった。
そんな中、愛子は一人だけ普段着のままだ。
「そんな服はイヤ」
というのが理由である。が、それとは別で猛雄が談するに「愛子さんに矛先向けた幽霊は須く散りました」らしい。
――余計な身繕いはいらないと言うことか……。
「立前上、依頼者の世間的信用の保護と方便切ってますが。その実、我々の保身です。社長からも説明があったでしょう。幽霊に顔や名前と言った個人情報を知られるのは大変危険です。舐めてかかって痛い目に遭った事から、当社では改善策として変装を取り入れました」
ここで猛雄は一息入れた。
「ですので。決して、〝ウキタ〟さんの女性的権利を蹂躙している訳ではありません。関西弁の抑揚は目を瞑るとしても、身を守るためですので悪しからず」
〝ウキタ〟とは仁美の事で、この一週間の実習で使う偽名だった。ちなみに、志空が〝モガミ〟で、猛雄が〝イワクラ〟である。
そんな中、愛子は一人だけ『愛子さん』に統一された。
「名前変えるのはイヤ」
というのが理由であった。
『なにかと面倒な事を定めるところはまったく変わらんな、人間は……』
保羅の心置きない毒突きと呼応して「はぁ~」と肩を落とす仁美に愛子が楽しそうに言った。
「〝ウキタ〟さんはどんな服を着ても格好良いですよ」
「愛子さん。格好良いって褒められるのはですね、女の子としては傷つく時もあるんですよ」
仁美は努めて標準語の抑揚で答えた。