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Side‡R  作者: 付焼刃 俄
15/42

霊害請負業 有限会社 アザーサイドコンタクト その参

「依頼はウェブ経由のメールから受けていまして、依頼主の身の危険性が高いと思われるモノから優先的に選んで仕事をしています。近頃は依頼が増加傾向にあるので、やむなく後回しする依頼も増えているんですが、当社は少数人でやっていると説明して依頼主の方々には納得して頂いています。

 依頼者と連絡を取り、然るべき情報を教えて頂いた後に一人から四人で現場に向かいます。

 決して依頼者に来て頂く事はありません。

 現場の状況を確認後、一般的な自然現象に対する勘違いや自己暗示、環境・外部要因の精神疾患が原因であれば、それ(そう)(おう)に対処。

 霊害の場合は度合いによって方法を選びますが、まあそれは実習中においおい分かると思います」

 「ここまでで何かご質問はありますか?」と言われて、仁美が訊いた。

「御社に在籍しているREI能者の方って、ひょっとして明無さんだけですか?」

「ええ、顧問の愛子さんだけです。それが何か?」

 猛雄の顔は「無論でしょう」とでも言いたげある。

「え? それじゃあ柳部さんも雨海さんも、社長の科塚さんもREIは――」

「使えません。ああでも、雨海さんは微弱に感知できるみたいでよくトランス――いや、幽霊と同調してます。ですが本当にそのくらいですね」

「それで仕事が勤まるんですか?」

 志空が(いぶか)った顔で訊くと猛雄は素っ気無く言い放った。

「霊害は物理現象であって科学で除去できるモノです。REIが使えなくても科学的アプローチに問題がなければ俺みたいな一般人にも解決できます」

 猛雄はソファーから立ち上がる。

「それじゃあ上に行きましょう」

「上って……あの個室ビデオの?」

 志空があからさまにひいている横で、仁美が真面目にとぼけた事を言う。

「個室ビデオ? あっ、そう言えば気になってたんですよ。『ビデオ試写室』って、どんなお店なんですか?」

 ――こいつ、かまとと振ってんのか?

 適当にあしらっている志空を()()に猛雄が的確に説明しだした。

「インターネット喫茶から、パソコンとゲームをなくしてビデオ視聴設備だけを設置。完全防音の完全個室で、主に猥褻・有害ビデオを見るためにある施設です」

 ――アナウンサーみたく淡々と言うな!

「へぇ、面白そうですね」

 ――女性としてはどうなんだその反応!

 心の声でツッコミすぎて勝手に疲れた志空の事など知らない猛雄はさっさと先導し始めた。

「安心して下さい。経営難に疲れた店主が首を括ってからはウチの持ち物です。清掃会社に入ってもらったので汚れなんか残ってませんよ」

 志空は種々の嫌悪感に顔を顰めた。そして最たる嫌悪に対して独りごちた。

「同じ物件で二人も自殺者が出るなんて普通じゃないな」

「いいえ、十二人です。ちなみに未遂者を合わせれば三十人以上に昇ります」

 階段を上がりながら猛雄が不穏な話をしだした。

「店主を含む首つりが三回、リストカットなどの失血死が五回、飛び降り一回、薬物中毒二回と、それに田沼さんです」

 志空達は胸元を木枯らしが吹き抜けたような寒気を感じた。

 猛雄の無表情な背中が続ける。

「田沼さん以外は、この四階と屋上で人生を終えました。ちょっとした原因から、このビルは弱り切った人を死に誘い込む働きをしていたんです。『呪われた試写室』と悪評が立って以降、一時期まったく借り手が着かなくなっていたこの物件はオカルト雑誌で取り上げられました。

 それを見付けたウチが、上から2フロア借りたんです。まあ、こんな仕事ですので――、原因を除いた数年前からは他にも借り手が付くようになり、オーナーからは有難がられてますよ」

 四階フロアの扉に着き、猛雄が鍵を開ける。

「だから、割と無理融通が利きます」

 扉が開いた。

 薄暗いが病院を思わせる白い清潔感が広がっていた。リノリウムの床、がらんとした二十畳ほどの空間の先に、Eの字に廊下が伸びている。枝分かれする一筋に四、五個の個室があって全部で十九部屋。手前の列が、倉庫であると猛雄は説明した。

 志空がふとした疑問がこぼれ出た。

「なんでこの会社にこれだけの施設が必要なんですか?」

「賃料が安く済んだので勢いで借りたというのもありますが。社長を含めた四人全員がこのビルに住んでるからです」

 猛雄の言葉に仁美が目をむいた

「柳部さんと雨海さんもここで寝泊まりしてるんですか?」

 「そう言ったつもりですけど」と仁美の勢いに猛雄は怪訝そうな顔をした。

「じゃあ、あの、明無さんも……」

 仁美がわなわなと声を震わせたのを見て、猛雄は得心いった溜め息を吐いた。

「愛子さんには屋上に別枠で部屋を設けてるんですよ。寝る時もそちらです。男三人はこのフロアの奥で寝てます。それに、愛子さんと不純異性交遊なんて物理的にあり得ません。お節介な心配しないで下さい」

 それから倉庫として使われている個室に案内されて、劇団の楽屋かと思えるほどの異種多彩な作業着や作業用具を見て回った。

「これは携帯脳波計と付属モニターです」

 猛雄は自分の頭に被っているヘッドセットと同じ物を見せてきた。

「さっき田沼さんが居たところで電子音が鳴りましたよね。修学されているお二人はもうご存知かとは思いますが、田沼さんくらいの幽霊になると、人間の脳は図らずもその存在に反応します。なので、これをつけていればREIの心得の無い俺にも幽霊の感知は可能です」

 突っ込んだ説明をすれば無光体の存在は脳に直接干渉・作用してくるモノなので、脳障害でもない限り、どれだけ鈍感な動物であっても彼らに触れ合う事で脳の周波数ヘルツが上にも下にもある閾値いきちを一瞬だけ越えるのである。つまりこの機械はその突発的な脳波を感知しているのだ。

 次に猛雄は、懐中電灯のお化けのような物を持ち上げて見せた。何故かランプの保護フィルターにひびが入ってる。

「これは人工陽光照明灯です。いかに幽霊と言っても元々は生き物でしたから、サーカディアンリズムに訴えれば無光子の記憶情報の上書きを促す事ができますし、あるいは生前の信仰心からでしょう。自ら無光子を放出飛散、つまりは成仏してくれます。しかし、これでダメな場合はこっちの採光チューブを使います」

 そう言うと猛雄は、内側を複雑に加工を施したドーム状の透明樹脂を被せた風呂場の煙突を思わせるパイプを引っ張り出した。

「性質は照明灯と同じですが、効果はこちらの方が段違いです。特に朝日の光を照射する事に使います。これでもダメな頑固者は――」

 「ピー、ピー」

 電子音が鳴り響き、猛雄が視線を志空と仁美の背後に移して表情を曇らせた。

「志空さん、仁美さん、おはようござい、ます!」

 元気な挨拶に振り向くと、寝癖をこしらえた頭、よれたTシャツにハーフパンツというカジュアルな服装の愛子がへにゃっと敬礼していた。

「おはようございます……」

 見た目にブラを着けてなかったので、目のやり場に(きゅう)した志空は咄嗟に(あし)(もと)を見た――。

 そして、そいつと視線がかち合う。

『……この助平小僧が』

『言うな! ちゃんと遠慮してるだろうが!』

 保羅と目が合って一合目を交わした。キツネのくせに器用に(はく)(がん)()してくる。

『遠慮? 志空さん何を遠慮してるんですか?』

 愛子が前屈みになって覗き込んできたので志空は目を閉じた

 ――南無三……。

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