真理子とピエロ
先日、二十歳になった真理子は、逸る気持ちを抑えながら公園へ向かっていた。
今まで彼氏なんてできたことがなかった。彼氏いない歴=年齢だった。周りの女友達が恋をして、彼氏ができて、幸せそうに過ごしているのを見てきた。いつかあたしも、と夢を見てきた。
そしてついに、そんなあたしに転機が訪れた。
ネットで偶然知り合った男性と話が合い、仲良くなった。なんやかんや話している間に、今日会うことになったのだ。つまり、人生初のデート。
話によると、彼は背が高く鼻筋が通っているため、よくハーフと間違えられるらしい。外国人寄りの顔付きなのはポイントが高かった。まだ語り合ったことはないが、ファッション研究という共通の趣味もある。
優しい性格で、話が合って、顔も好みで、趣味まで同じ。これ以上ないと思う男性に巡り合えたのだ。こんな機会、絶対に逃したくはない。
だから、今日はバッチリおめかししてきた。彼好みのナチュラルメイク。トレンドアイテムを取り入れた、悩み抜いた最高に可愛い服装。髪型だってこだわってきた。気合も十分に入れてきた。
絶対にこのデートを成功させる!
そして、真理子は待ち合わせ場所の公園に着いた。ここの時計台の下で待ち合わせなのだが、少し早く着いてしまったらしい。真理子は時計台が見える、離れた位置で待機することにした。
やはり女の子、少し遅れて登場したいなんて願望があるわけで……。
真理子は鞄のからミネラルウォーターを出してグビッと飲んだ。柄にもなく緊張しているようだ。
五分後、ひょろっと背が高い男性が現れた。だが、待っている彼ではなかった。なぜなら、ベビーカーを持っていたからだ。彼は独身で、子供はいない。
それにしてもなんというファッションセンスだろう。黄緑色のハート型サングラス。ピンクと紫の長いシマシマの帽子。薄紫のシャツ。スパンコール光る、赤い蝶ネクタイ。丈が短いピンクのサロペット。右足は黄緑一色、左足はピンクと紫のシマシマのアシンメトリータイツ。ピンクのふわふわ綿毛付きの靴。
酷い! 酷すぎる! だけどベビーカーだけ普通とかっ。そこは揃えて、ピンクのベビーカーとかにしようよ! なんなのあの人! 変人? イベントの人? コスプレイヤー? 気になる。彼が来るまで、ちょっと様子を見ていよう。
男性が変な格好してるため、時計台周辺にいる人達はみるみる離れていく。または、自分と同じように遠くから見ていた。
そのことに気付いたのか、男性は恥ずかしそうに帽子を深くかぶって顔を隠した。それでも恥ずかしいらしく、右手でフレミングの法則を作り、顔に当てた。それは、かの有名なガリ●オポーズだ。余計に目立つ。何をやっているんだと、真理子は笑いを堪える。
すると、突然赤ん坊が泣き出した。慌てて男性はベビーカーから赤ん坊を出し、抱き上げた。ゆらゆら揺らしたり、変顔したりしているが、いっこうに泣き止まない。
男性はアワアワしながら、首から下げていた時計で時間を確認した。誰か待っているようだ。多分、奥さんだろう。
「…………」
ああっ、奥さん何してるの!? 早く!
赤ん坊は、さらに泣く。
「ああ、もう!」
見かねた真理子は、男性の元へ行った。
「すいません! ちょっと赤ちゃん貸してください!」
真理子は男性から赤ん坊を預かると、見事に泣き止ませた。年が離れた弟がいるため、こういうのは得意だった。
真理子は、泣き止んだ赤ちゃんを男性に返した。
「ありがとうございます。えっと……真理子さん?」
真理子はエッと声をあげた。
「どうして名前を!?」
「やっぱり真理子さんだった。ワタシ、今日、あなたと会う約束をしていました者です」
真理子は目を丸くした。
「うっそぅ!」
男性は、サングラスを外した。鼻筋がスッと通った外国人風の顔があらわになる。彼だと真理子は理解した。
「え、でも、なんで赤ちゃんがいるんですか!??」
「この子は、姉の子です。仕事の関係で、急に預かるよう頼まれてしまって……すいません」
彼は申し訳なさそうに言った。
「あ、そうなんですか……」
確かに、子持ちの姉がいると言っていた。
「ガッカリしましたか? ワタシがこんなカッコ悪い人で」
「ええ……少し……。何故そのような格好を?」
「ワタシ、ピエロが好きなんです。子供の頃、アメリカのサーカスで見てからハマってしまいまして……。ファッション研究が趣味というのは、正確にいうと、ピエロのファッション研究のことなんですよ。夢もピエロです。今は先輩ピエロに芸を習いながら、見習いピエロやってます」
そうだったのか。
「じゃあ、ジャグリングできます?」
実は真理子、サーカスが大好きだった。そのため、さらに、彼に興味が沸いたのだ。
すると、彼はベビーカーの荷物入れからカラフルなボールを五つ取り出した。そして、その場でジャグリングを披露する。周囲の人達が立ち見するほど上手だった。
「凄い、凄い!」
彼は照れながらボールをしまった。照れる姿を可愛く思う。
「あの、良かったらこのワタシのサーカスに行きませんか? ワタシのピエロパフォーマンス見てください。先輩ピエロとのコンビネーション技も披露しますよ」
「はい、ぜひ!」
真理子は彼に付いていった。彼のファッションを見て凝視する周囲の目なんて気にならないない。ネット上よりも会話は驚く程弾んだ。
ふと彼は思い出したかのように声を上げた。
「真理子さん。今更かもしれませんが、誕生日おめでとうございます」
「いいえっ、ありがとうございます!」
その後、彼は誕生日祝いも兼ねたスペシャルパフォーマンスを、あたしだけのために行ってくれた。それは素晴らしいもので、初デートは忘れられない思い出となった。
この出会いは今でも脳裏に焼き付いている。彼は現在、一人前の人気ピエロとして、サーカスで活躍中だ。そして、あたしの自慢の旦那様だ。
HERIOS短編二作品目です。
今回も三題お題話。
お題は、時計・フレミングの法則・ベビーカーでした。
フレミングの法則と出題者、時雨に言われたときはえっ!? となりましたw
最後の挿し絵は真理子ピエロ体験! 的な感じで書きました。
なんかすごい失敗してますねw
肌が白いのはメイクです。
本当はもう一枚用意していたのですが……ちょっとミスをしたのでやめました(;´∀`)
さて、当初真理子は自分は可愛いのに彼氏ができない。高嶺の花的な子でした。
しかし、真理子のイメージが違う気がして、急遽変更しました。
そして、彼の服装ですが……ピエロっぽくない! って方もいるかと思います。
わざとそうしてみました。
後輩ピエロなんだから、先輩ピエロより目立つ格好をさせない方が良いだろうという判断です。
ですが、実際描いてみて、もう少しはっちゃけた格好でも良かったかもと思ったりもします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!!