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第8.5話 その頃彼女は

 更新間隔が開きすぎるのもどうかと思ったので、ちょっとしたエピソードを。

 主人公視点でのお話ではありませんので、ご注意を(何の?)。

 噂というものは、自然と流れてくるものなのだと呆れてしまう。

 アリシアとしては聞き耳を立てているつもりはないのだが、侍女達が彼女に聞こえる所で話をしているのだから、聞こえてしまうのも無理は無い。


(そうです、別に私が聞き耳を立てているからではないのです)


 自分にそう言い訳をすること自体が恥ずかしくはあったが、仕方ない。聞いてしまったことを無かったことには出来ないのだ。


 シン・レイナード。その名をアリシアが初めて耳にしたのは、いつのことであったか。母は「助けることが出来たら良いのですが」と言っていたが、『彼』を助けるためには色々と障害が多いということを、アリシアは徐々に知ることになる。そして、知れば知るほど、『彼』の立場は国内で悪くなっていく一方であった。


(占いが何だというのでしょう。まだ何もしていないのに、何故裁かれなければならないのでしょうか)


 アリシアは一部貴族が『彼』を亡き者にしようと画策し、失敗したということを父から聞かされている。そして、その中で『彼』が母親を亡くすことになったことを知った。


(お父様は難しい問題だと仰っていますが、このような事態はすぐに解決しなければなりません!)


 強く、そう思う。しかし、アリシアには何の力もない。周囲から大切にされてはいるものの、ただの小娘。願うだけでは、『彼』を救うことなど出来やしない。それがわかっているだけに、己の無力さが腹立たしい。


 しかし。そんなことに腹を立てているだけでは、ただの愚か者である。自らの立場を理解し、その上でどうするのか? それを考えるべきなのだ。


(悩んでいても名案は浮かびません……ここは、悔しいですがお父様のお知恵をお借りしましょう)



☆ ☆ ☆



「それで……話とは何だね、アリシア?」


 職務を終え、ゆったりした服に着替えた父が、ソファに身を預けながら尋ねてくる。ここ最近忙しい父に、無理を言って時間を作ってもらったのだ。


 向かい側のソファに座り、アリシアは意を決して『議題』を告げる。


「シン・レイナード様のことです」


 そう告げると、父が困ったという表情をしたのを、アリシアは見逃さなかった。


「『彼』のことか……私も、どうにかしたいとは思っているのだがね」

「ですが、状況は一向に良くなっていないと聞いています。――お父様のお力で、どうにか出来ないのでしょうか?」


 出来るのであれば――聡明な父のことである、既に手は打っている筈である。それを承知で聞いたアリシアは、己を卑怯だなと評価した。


「出来るのであれば、何かしらの手を打っているよ」


 返ってきたのは、やはり想像通りの答だった。


「政治というのは厄介なものだよ。弟達――お前にとっては叔父上達か、彼らが嫌がったのも、今では理解できる。私は、あまり考えなかったからね」


 そう言って苦笑する父。


「力で抑えつけるだけであれば、簡単なことだ。だが、それはやがて大きな『歪み』を生む。最初は見えなくとも、じわじわと。――そして、それは国を傾ける」

「政治的な問題があるから、『彼』を見捨てる――と?」


 アリシアが非難の意を込めて言うと、父は「そうではないよ」と苦笑した。


「私は立場上、直接『彼』を助けることは難しい。出来なくも無いが……それは、『彼』の今後を危うくする危険性があるからね」


 そこまで話し、侍女に用意させたお茶に口をつける父。アリシアにも用意されていたが、口をつける気にはなれなかった。


「だが、幸運なことに、私にも良き友人達がいてね。彼らの助けを借りて、どうにかしようというところだよ」


 アリシアにとっては初耳な話である。これでは――父を『糾弾』しているのが、馬鹿みたいではないか。


「お父様……意地悪ですね」


 それぐらいは言わせて欲しかった。意を決して『場』を設けてもらったというのに、あんまりである。手を打っていないと言いながら、実はちゃんと手を打っていたのである。


「ははは……まぁ、アリシアに怒られるのも仕方ないさ。実際、私は『彼』を助けることが出来ていないのだからね。友人の助けがなければ、私には何も出来ないようなものさ」


 しかし、『やろうとして出来ない』のと、『やらずに出来ない』のでは事情が全く違う。


「お父様は『彼』を……助けてくれるのですね?」


 期待を込めて、父を見る。


「どこまで出来るかは、断言できないがね。まぁ、『彼』の一族にはこれまで何も出来なかったからね。……せめて、私の代では何かをしたいというものさ」


 そう言って肩をすくめる父に、アリシアはその苦労を垣間見た。アリシアの知らない、複雑な問題というものがそこにはあるのであろう、と。それを「そんなことくらい」とは、言わない程度にはアリシアは大人になりつつあった。


「眠っている『アレ』を『彼』に渡せたら色々と楽なんだがね……流石に、こればかりは一族同士の問題、という訳にはいかないからなぁ」


 苦笑する父。――信じてみても、良いのかもしれない。


「私は、伝え聞くお話でしか『彼』を知りません。ですが、私は『彼』のことをもっと知りたいですし、『彼』を助けたいのです。私の『我儘』を、どうか叶えてください」

「普段聞き分けの良いアリシアの『我儘』、か。――いや、昔は結構そういうところが無かった訳でもないが……」


 そう言って笑う父。アリシアは「子供の頃のお話ではありませんか!」と、頬が熱くなるのを感じた。


「そうだな、アリシアの『我儘』では、聞かない訳にはいかないな」


 席を立つと、父は呼び鈴を鳴らして侍女を呼ぶ。


「二時間後に会談を行いたいと、フォートラン伯爵に連絡を」


 侍女が下がると、父はアリシアの頭を撫で、微笑んだ。


「国の行く末にも関わる問題だ、頑張らないとね」

「ありがとうございます、お父様」


 色々と問題が山積みだと聞かされている。その中で、こうして父に無理をさせていることを、アリシアは理解していた。それでも、アリシアは『彼』を救うことを願った。かつて一度だけ、遠くから見た『彼』――シン・レイナードを救うことを。


(今はまだお会いすることは叶わないでしょう。ですが、きっと――)


 部屋を出て、自室に向かう最中。ふと窓から夜空を見上げて、アリシアは幼い頃からの夢を叶えるべく、今の己に出来ることを模索しようとしていた。


 シン・レイナード。黒い髪の、男の子。優しくて、明るくて。そんな彼を遠くから見て、アリシアは『彼』と話をしたいと願った。しかし、それは叶うことはなく、随分と年月が過ぎてしまったと思う。


「今度こそ、きっと――」


 ベッドの中で、そう呟き、瞼を閉じる。『彼』が、少しでも良い夢を見られるようにと願いながら――。


 という訳で(どんな訳で?)、第9話の前にちょっとしたエピソードを追加しました。時系列的には話数通りとなっております(つまり、シンが刀を手に入れた後ですね)。

 アリシアって誰? ということにつきましては、まぁそのうち本編に出てくるので割愛ということで。というか、バレバレのような気もしますが(苦笑)。まぁ、知らんぷりしてお楽しみください、ということで!

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