しがない学生、緊張する。
遅くなりました。
俺は、佐々木 貴幸。
しがない学生だ。
つい先日、一目惚れなんて言うとんでもないものをしてしまい、只でさえ戸惑っているのにそれを詰め寄られて同級生にバラしてしまった。
善良な一般人でチキンな俺(自分で言ってて悲しくなってきた)は、とにかく推しに弱いんだ!
嗚呼…、ノーと言える日本人になりたい。
「もしもーし、貴幸ちゃん。何自分の世界に入っちゃってるの!」
「…別に。自分の迂闊さを心から悔やんでいるだけだ!…ってか、からかう時だけ“ちゃん”付けるのやめろ!」
「えっ、常に付けて欲しいの?」
「んなわけあるか!」
「も~二人共!じゃれ合うのはその辺にして、いい加減お店に入ろうよ!」
…そう。
今、俺達は例の人がいる喫茶店の前にいるのだ!
しかも、三人で。
話しを聞いた二人が、会いたいと駄々をこねたのだ。
決して、俺から言い出したのではない!
…会いたいと思ったのは確かだが。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!まだ、心の準備が…」
「そう言って、かれこれ一時間経つところだよ!」
「正確には五十八分四十九秒だな」
「うるさい!もうちょっと待ってくれ!」
こちとら恋愛初心者なんだ!
そんな直ぐに心の準備なんか出来るか!
もう何度繰り返したかわからない深呼吸をあきもせず、する。
脳内では、呪文のように同じことを繰り返し唱えていた。
俺はただの客、俺はただの客、俺はただの客、俺はただの客…、決して彼女に会いに来たわけでもストーカーでもない!
カッと眼を開くと、俺は勢いのまま扉に手をかけて押し開いた。
ピンポーン
「いらっしゃいませ!」
「あ、ようやく来た」
「すみませ~ん、連れが来たんで、注文お願いします」
俺の気合いを嘲笑うように、入ってすぐのサンルームに腰掛けて呑気にお冷やを飲んでいる二人に、俺はガックリと肩を落とした。
軽いセンサーのチャイムが、空気のような俺の存在を主張して、再度鳴った。