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最初、その変化に気づいたのは家の近くで銀の指輪を拾った時だった。高そうな指輪が落ちているのをちょっと奇妙に感じながらも手を伸ばすと、そう、丁度鉄が磁石に引き寄せられるように、指輪が指に吸い付いたのだ。
初めは指輪が特別なのだと思ったが、その後にも奇怪な出来事は続いた。
高い場所にあったペーパーナイフが突然落ちてきたり、スった財布の中身が小銭ばっかりだったり、学校で自分の周りの人ばかりシャープペンを落としたり…等。
道で良質な貴金属を拾った時に確信した。
どうやら俺は金属を引き寄せているらしい。
それも常時発動しているのと意識して引き寄せるのと両方で。
原因といったら一つしか思いつかない。あの時の宝石だ。一応金属を引き付ける宝石について調べてみたがNo hit.今考えれば見た目よりも重かったような気がするし、そもそも宝石だったかどうかも怪しい。まず、ただの宝石を組が部外者を使ってまで手に入れたがるだろうか。少なくとも、ゴロツキ達が宝石を持ち逃げしないよう、依頼達成のあかつきには宝石以上の報酬 を用意していたはずだ。そこまでして宝石を手に入れることにメリットがあるとは思えない。
ただの宝石だったなら、だが。
シェルムは深くため息をついた。残念ながらあの石はまだ彼の体の中だ。自業自得とはいえ、厄介なことに巻き込まれたのが、その原因を作った自分の意地汚い根性が、酷く恨めしい。
しばらくは知らん顔を決めこもうか、それとも誰かに意見を聞くべきか。
前者はまずい。誰だかは知らないがこの状況を知ったなら何をされるか分かったもんじゃない。だったら誰に相談するべきか。ベッドの端に腰掛けながら、彼は思い付く限りの人を考察してみる。
義親と先生の類いはパスだ。まずもって話せる内容ではない。他に組とかの状勢に詳しくて、空気を読んで黙秘を守ってくれるそんな好人物。
…先の条件をクリアしている人物は彼が知る中で一人しかいない。よろしくない高級家庭のお嬢様であるアキナ。その他の条件については… まぁ、及第点だろう。
明日、聞いてみるか。
それでこの問題について考えるのは止めにしようと思ったのだが、何度振り払っても思考回路が止まらない。この先どうなるのか分からない恐怖に自分が占領されているのは確かだ。ビビっている自分が嫌になる。
散歩でもするかな。これ以上考えたって意味が無いならいっそ頭を空にしてこよう。
いわかんとは私自身のことだ!by亀の人