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アキナが帰ってきてすぐ、玄関のロビーで彼女の兄、ルチェルとまたあの男が話していた。
彼女は眉をひそめた。どうもあの二人は好けない。
ルチェルについては養子であり本当の兄じゃないというのもあるが、それ以上に油断ならない腹黒さを秘めている。
それよりも兄が連れてきたあの男だ。一見するとただのお洒落に着飾ったチャラ男だが、何だか常人外れな感じがして気持ち悪い。兄曰く心身傷ついて引き込もっていた時期があったからだそうだが、アキナが怖いと思うのはそこじゃない。
何か腹に逸物あるような気がするのだ。
この間の空き巣騒ぎだってこの男と兄が絡んでいるに違いない。…と、アキナは思っている。
あまり関わりたくないので壁際を貼り付くように歩いてみたが、目ざといルチェルに見つかってしまった。
「おやアキナ、帰っていたのですか。お客さんに挨拶しなさい。」
渋々ルチェルの隣の男に会釈する。
「あはは、やだなぁお客さんだなんて。僕とルチェルくんは友達じゃないか。アキナちゃんも僕のことはウッドペッカーでいいからね」
兄は誰も信用しない、友達は外面だけだ。この男はそれがわかっているのだろうか。
「はぁ」
アキナは気のない返事だけ残して、早々に部屋に引っ込む。ルチェルは彼女に鼻を鳴らした。
「まったく、挨拶ぐらいちゃんとするべきですね。」
「きっと難しい年頃なんだよ」
なんてことないように笑う。今日のウッドペッカーは機嫌がいい。ルチェルは彼の機嫌を損ねないように微笑を返した。
この男はとても扱いづらい。組の跡継ぎとして常に客と腹の探りあいをしているルチェルにとって、ここまで理屈の通らない人は計算外の相手だ。しかし、今こいつを手放すわけにはいかない。
「そういえば、あのパーツが盗まれたって聞いたけど」
「ええ、空き巣に入られまして。しかし、部品しかとられてないのを見ると、別勢力が勘づいて手をまわしたのでしょう。今下の者に捜させています。」
「素晴らしい予測だよ。でも誰か盗人を目撃したのかい?」
ルチェルは眉を寄せて首を振った。
何を考えている?お前の腹の内が知りたい。
「すると、いやまさか…だがやっぱり、君なのかい…?」
ぶつぶつ呟いていたウッドペッカーの目が、不意に輝いた。いぶかしむルチェルを余所に、彼の考えは一つに収束した。
「…うん、でも既に分離したから問題ないと思う。そのパーツについては前に集めるように言ったパーツがあれば、自ずと集まるさ。」
ルチェルは全く考えの読めない彼に、軽く首を傾けて見せた。
「その“中心”については今少々手こずってましてね。まだかかりそうですよ。」
「まぁ、どちらかが手に入ればどうにかなるよ」
この男はまだ何かを隠している。注意を怠ってはいけなそうだ。何が起こるかなんて、まだまだ予測がつきそうにない。