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生意気な態度に感化された追手の一人が、唸りながら跳びかかってきた。シェルムは避けようともせず、むしろ正面から拳を叩きこむ。自らの突進によって破壊力を増したパンチは男の意識を吹き飛ばし、その場にずるずると崩れ落ちた。もちろんシェルムだってただでは済まない。伸びきった腕から全身に衝撃が駆け抜ける。
だが彼は止まらない。ビリビリする腕をそのままに、次の相手に突撃する。いきなりの反撃に対応できなかったそいつは、シェルムの跳び蹴りを直に食らい、地面に転がった。シェルムは馬乗りの姿勢のままそいつの意識が飛んでないのに気づくと、そこらに転がっていた石で何度も殴りつけた。
石が尖っていたのか男の顔が裂ける。言葉じゃない何かを叫ぶ。
それでも殴り続ける、男の意識が無くなるまで。
シェルムは喧嘩でのみ手に入れられる高揚感を味わっていた。少なくても、ここにいる誰よりも喧嘩を知っている。集団でのリンチしか知らない奴等とは違うのだ。彼はどこまでも非情になれた。
だが多勢に負勢、目の前で仲間をオーバーキルしている少年を、連中が黙って見ているわけがない。
一人が無防備な彼の背中に、どこから持ってきたのか鉄パイプを振りかぶる。
突然の背後からの衝撃に、さすがの彼もゴム鞠のように吹っ飛んだ。受け身をとったが、壁に激しくぶつかって息が詰まった。 動けなくなった彼を見て、このやろう、と獣のように吠えながら連中が群がって来る。
それ以上は、もう意識の範囲内ではなかった。
やっと家に帰って来たとき、シェルムはすこぶる不機嫌だった。当たり前だ、あの後起きてみれば、ポーチがないのはもちろん宝石は呑みこむし自分の財布も空になっていたのだから。
殴られ損だ…。最後の希望にかけて宝石を吐き出そうと試みたが、宝石が出てくることはなかった。
腹いせに玄関を蹴り開ける。しかしすっきりするどころか、壊れたドアに後悔することになる始末。でもまぁ、彼の家があるこの場所は特にガラクタや不当放棄が酷い廃地なので、泥棒が出る心配はない。外れたドアを無理矢理はめながら彼は変にわりきる。
別にいいか。やる気が出たら直そう。
1つしかないソファーに倒れるように横たわると、布の質感があちこちの打撲を労ってくれる。
今更ベッドに寝直すつもりもなく、一日を締めくくる眠りにおちた。
彼はすぐに宝石に見えたその石の異常さを思いしらされることになる。
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