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曲がり路地この先は行き止まりだが、敢えて駆け込む。こうして追い詰められた風を装えば、間抜けな盗人シェルムくんはポーチを取り上げられる+aだけで済むわけだ。
きっと追手の皆さんは彼をただではおかないだろう。連中にとってこれは思いきり弱い者虐め出来る絶好のストレス解消の機会なのだ。
殴られるだけで面倒を避けられるなら、殴られてやろうじゃないか。ただし、殴られて何も得られないのは癪だ。転んでもただでは起きない、それだけの根性が彼にはある。いや、貧乏根性だろうか。とにかく、せっかく滅多に会えない大獲物を手にしているというのに、その利益の鱗片でもありつけないのはもったいなすぎる。
彼はちょっと考えを変えて、行き止まりまでの短い間に行動を起こす。出来る限りの敏捷さでポーチの中身を確認、( ポーチの中身は金品とか宝石の山だった、組ならよくある事だ)適当な宝石をくわえた。紅くて楕円形の石。上手くすればこの宝石だけ気づかれずにもって帰れるかもしれない。
ポーチを閉めると、目の前はもう行き止まりだ。足を止めて振り返れば、追手が路地に走りこんで来るところだった。
「おい、そこの小僧。その手に持っている物は何だ?」
追手の一人が声をあげる。シェルムは黙って男を見返す。そんな彼を見て男の顔に凶暴な笑みが浮かんだ。
「盗みを指摘されてだんまりか。それが悪い事だって教えてやらなきゃいけないな」
奴等の間で下品な笑いが漏れた。こういうとことん頭の悪い連中は鬱憤を暴力で晴らすことしか能のないサディストばっかりだ。
シェルムは唐突に追手達の中につっこんだ。ポーチを抱えたまま、不意をついて逃走しようとする。もちろん、そう上手くいくはずもなく彼はその場に取り押さえられた。そうなることはすでにわかっていたのだが。
全力でじたばたと暴れたらいきなり腹を殴られた。思わずポーチを手放して腹を押さえる。この程度で攻撃が止むはずもなく、今度は後ろから頭にもう一撃。抵抗することも出来ず、前のめりに突っ伏す。目の前に星が散った。
やり返すべく立ち上がるが曖昧な平衡感覚に遊ばれまた地に落ちた。笑い声が上がる。転けた拍子に切ったらしい、口の中に血の味がひろがった。
待てよ、なんで口の中を自由に確認できる?宝石は何処へいったんだ!
さっき殴られた時に呑みこんだのだろうか、彼はもう宝石を含んではいなかった。
なんてことだ、せっかく持ち帰れそうだったのに。それに気づいた途端、彼の中に沸々と黒い怒りが沸き始めた。こいつらのせいで全部台無しじゃないか。
彼の金への執念には感服せざるえまい。
いやしかし、シェルムは激怒する理由が欲しかっただけかもしれない。自分でわり切ったにせよ、他人に危害を加えられるのはそれだけで腑に落ちないものだ。
怒りが身体中の痛みを、軽い脳震盪さえも消し去って、彼は再び立ち上がり男共に向き直った。
彼の目は、狂暴さに爛々と輝いていた。