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骨を犠牲にしてまでやっつけたバイクがへでもない顔して目の前に佇んでいるのを見て、シェルムが少なからず衝撃と怒りを感じたのは確かだ。
したがって思わず足が出てしまったのはしょうがなかったことかもしれない。
「本来50ccの古い型なんだけど、改造して80ccにしてあるんだ。でもな?イピオスをそこらの80ccと一緒にしてもらっちゃ困る。なんてったってこいつは…っておい蹴るなよ!」
スニーカーの先が青の装甲に当たって重い音を立てる。その途端、バイクのエンジンがかかり震える様な駆動音。ウーウー唸りながら前輪が高く持ち上がった。驚いたのはシェルムだ。
なんだ、叩いて動くとか旧世代のテレビかよ。そうじゃなくて牽かれる、いや踏まれる!勢い良く回転しながら前輪が迫ってくる。
そんなときバグから鶴の一声。
「止め止め!」
バイクはピタリと停止した。そしてゆっくり後退しながら前輪を下ろす。シェルムは無意識に止めていた息を一気に吐き出した。心臓の動きが喉の辺りで感じられて唾の飲み込みようがなかった。
「イピオス、こいつ怪我してんだ。お前がじゃれただけで死んじまうよ。おい、お前も相棒は気難しいんだから怒らせんなよな」
今のは、確かにバイクがひとりでに動いていたように見えた。彼は横目でバグに説明を求めた。バグはそれに気づいて悪い笑みを返す。
「だからいったろ?そんじょそこらのバイクとは違うって」
シェルムはやっと絞り出した言葉で問直す。
「何、これ」
「何って、なんかパーツを組み込んだら自意識を持って意思表示出来るようになったバイク?うぅんめんどい、ちょっとメカな生き物、かな。なぁ相棒」
バグは得意気にイピオスを軽く叩いて見せた。バイクは返事の代わりにライトを光らせた。
シェルムは目眩がする気がした。パーツは彼が思っていたよりもずっと特殊で奇怪な物だったらしい。