16
目を覚ましたのは、自分の家だった。
曖昧な意識のまま、シェルムは二度寝するべく寝返りを打とうとして、思わず叫びかけた。肋骨が軋んで酷く痛む。何だってんだ、畜生…
痛みが意識の曇りを吹き飛ばし、記憶が鮮明に甦る。投げ出された時の浮遊感と水面に叩きつけられた時の衝撃が手が届くほど近くにあった。そっと肋の調子を確かめていると、キッチンのドアが乱暴に開かれた。御盆を片手に、スプーンをくわえて出てきた見知らぬ男と目が合う。
こんな時に言う台詞は考えるまでもない。
「誰だお前」
男はにやっと笑って質問を無視した。
「目ぇ覚めたみたいだな。飯先に貰ってるぞ」
無視なんてさせるかよ。
「だから何なんだよ」
男は御盆を無造作に机に置くと、シェルムの手にもう一つのスプーンを押し付けた。
「おいおい、お前を海から拾ってここまで運んできてやったの俺たぜ?」
御盆を覗くと、コーンスープが湯気を立てていた。…これ、家にあったインスタントだろ。
「おっと、運んできたのはイピオスだったな」
訂正する男に、彼は方眉をあげる。それに気づいて、男はウインクして見せた。
「相棒の名前だよ。イカしてるだろ?」
シェルムはじと目で応える。
「不法侵入者には勿体無い爽やかな名前だな」
男は悪戯っぽい笑みを浮かべたまま彼を見下ろした。視線から逃げるべくスープを手に取って温度を確かめる。
「お前ん家いいな、大きいガレージ有るし。お前一人暮らしなのか?」
黙秘権。スープをすする。温かみが冷えた体に優しい。閑を持て余した男は、家のあちこちを眺めて回る。
「お前は?」
シェルムの言葉に、男は肩越しに振り返った。
「Wh?何が」
「名前」
男は大袈裟に悩ましげな表情を作って見せる。
やがて何を思いついたのか、指を鳴らした。
「そうだな、バグとでも呼んでくれや」
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