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少女は色の消えた瞳で彼のことを見下ろしていた。容赦無い拘束は全く弱まる気配がしない。むしろシェルムの腕を折るつもりらしい、さらに強まる。
「紅い石は何処?」
表情の無いように見えたチルの目にみるみるうちに涙がたまっていく。
「教えて」
それだけが、彼女が腕を折りたくないことを告げていた。これだけで旧友に残酷なことを強制させるというのか!本当に腕を折られそうだという恐怖と、旧友への同情、あの石の存在への憎悪、組への怒りがごちゃ混ぜになってシェルムを打った。
彼はそれらを全部気力に変える。とりあえず、腕を折られてはたまらない。両足で少女を蹴りとばす。固められていた腕は多少捻ったが、彼女の拘束から逃れることができた。
次は俺の番だ。
素早く立ち上がろうとする彼女の喉にナイフの刃を押し当てた。顎が上がり、細い喉が上下する。少女は目だけでシェルムとナイフを見比べた。
形勢逆転の気配がシェルムを冷静にする。この際ある程度情報を引き出しておこう。
「チル、懐かしいね。たいそうな感動の再会だな。紅い石だって?何も知らず巻き込まれるのはごめんだ。教えてもらおう。」
わざと邪悪な笑みでいい放つ。チルは苦々しげに自分のへまを悔いているようだったが、やがて諦めて肩を下ろした。
「何が聞きたい?」
「あれから何があった?何故お前こんなことしてる」
チルは驚いて彼をチラリと見やった。だがそれ以上にシェルム本人が驚いた。どうやら自分は思っていたよりも彼女を心配しているらしい。
「学歴のない障害者の僕が就ける仕事なんて限られているってだけさ。」
昔の彼女とは似ても似つかない鋭い雰囲気が、彼女の人生の一部を物語っていた。
「僕は今、駆ける足と引き換えに“教会裏”で働いているんだ。今回だってそこからの任務」
“教会裏”?それはアキナの父親がやっている組のあだ名じゃないか!これは益々アキナに事情を聞かないといけないな。
「駆ける足…か。その足だな?いったい何なんだそいつは」
彼女は庇うように義足に手を沿える。
「オーパーツ、第3次世界大戦の遺産だよ。この足には“機動力”のパーツが組み込まれているんだ」
いとおしそうに足の上を手が滑り落ちた。
「まさかまた走れるとは思ってなかったよ。この足は僕に風をくれたんだ。」
気持ちは理解してやりたいが、常識外れな代物に素直に賛成し難い。むしろチルがその足に取り付かれているような気味悪さに、シェルムは眉を寄せた。質問を変える。
「紅い石もオーパーツなんだな?」
彼女は前髪の隙から凛々しい目でシェルムを眺める。彼を疑っているのだ。
「そうらしいね。なんてパーツかは知らないけど。君が持っているんじゃないのかい」
質問返しはスルー。今は俺が質問しているんだ。
「“教会裏”はそれらオーパーツを集めて何するつもりなんだ?まさかまた戦争おっぱじめようって訳じゃないだろうが」
笑えない冗談だ。こんな小さな町のマフィアごときが世界に喧嘩を売るなんて命知らずにもほどがある。その線はまず無いだろう。
「それについては僕も知らないよ」
チルは鼻から息を吐いて見せた。まあ、組の奴等が部下にありのまま伝えているわけがないか。
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