紫陽花の香[5]
綺麗に清掃された廊下をひたすら歩く。
まるで迷路にいるかのような錯覚をおこしそうだ。
見たことのあるような扉を少女は開ける
「…また貴様か。」
「お願いができたの。」
やはり、大きなソファに寝転がって本を読んでいたマリーは、フンと鼻を鳴らして座りなおした。
「…小娘、前回の対価をもらっていないぞ?」
足を組んでふんぞり返るマリーに撫子はさらりと顔にかかった髪を払う
「今回のお願いと一緒にお支払いします
それでいいでしょう?」
「見合うのであれば、よかろう。」
少女が運んできたティーカップを持ち、読んでいた本を少女に渡して撫子を見据える
「して、貴様の願いをいってみよ。」
めんどくさそうに言うマリーに撫子は目をギラギラとさせて、はっきりと言った
「ある女を消して、私の世界を帰してもらうわ。」
黒く濁りきった撫子に、マリーは心底めんどくさそうに、息を吐いた。
「結論から言おう。
女を消すことも、貴様のいう世界を作ることも、童には動作もないことだ。」
「よかった。
じゃあ、対価はおいくらかしら?」
「せっかちな小娘よのう。
まだ“やる”なんぞ、言っておらん。」
「なに?まだ何かあるの?」
「この世の万物は神の手の内。
童が干渉しても、その対価が大きすぎるのじゃ。
童は貴様の罪まで、背負うつもりなどないからの。」
「…意味不明だわ。
どうせ、できないからそうやって言うんでしょ?
出来ないなら、出来ないってはっきりしなさいよ」
「言っておろう?
貴様の願いはかなえることができる、と。
しかし、貴様の人生全て使っても対価を払いきることは出来ぬ、といっておるだげじゃ。」
「何それ?
なんでもいいからはやく金額言ったらどうなの?」
「これだから頭の弱い人間は嫌いなんじゃ。
…よいか、童は神でも仏でもない。
あやつらに楯突いたところで、童ですら、勝ち目などまったくないのじゃ。
そんなやつらの可愛いペットに手を出してみろ。
やつらだって感情ぐらいある。
おきた出来事は一瞬で過去になり、過去になれば過ぎたこと。
変えることなど、できないのじゃ。」
「だから、なんだっていうのよ?
私がやりなさいっていってるんだから、おとなしく従いなさい!
だいたい貴方は、私に対して失礼です!
小娘だとか、貴様とか…!
私を客というなら少しはきを使いなさい!」
「…貴様、自分の立場がわかっていないようじゃな?」
マリーは感情の見えない瞳で撫子を見据え、机をはさんで座っていた彼女は気がつくと撫子の前に立っていたのだ。