紫陽花の香[4]
転校生、アニが撫子のクラスにやってきてから2ヶ月
はじめは転校生という珍しさからか、クラスメイトがアニにかまっていると思っていた。
休憩時間は撫子がクラスの中心にいた。
アニが来るまでは。
アニが来てからクラスの中心は撫子からアニへ。
2ヶ月がたった今、撫子の周りには、幼馴染である美咲だけである。
「アニちゃん、すっごいいい子だよね」
美咲の一言が、撫子を黒く染めていく。
既に唯一といってもいい彼女さえも、撫子よりアニを選んでいるかのようにも聞こえる。
撫子より、アニのほうがいい子
アニは何をやっても完璧で、いろいろなことを知っているし、外国人特有のフレンドリーさが、アニの周りを元気にしてくれる。
撫子と一緒にいるのは、幼馴染だから仕方なく。
美咲が言っているわけではないが、撫子にはそう聞こえてしまうのだ。
私があんな女に負けるはずがない。
どうせ、裏では仮面を脱ぎ捨てて、酷いに決まってる。
なぜ、みんなはそれがわからないの。
私のほうがなにもかも優れているというのに。
撫子のココロはドロドロと黒くよどんでいく。
ああ、この世界はなんて汚れてしまったのだろう。
すべて、あの女のせい。
私のための、綺麗な世界を壊した女。
許さない。
撫子がふと我に返ると、そこには見たことのある城門があった。
『貴様の願いはなんじゃ?』
脳裏に金色の瞳がよぎる。
ああ、ここは私のための場所だったのね。
「…お客さん?」
あのときと同じ声が聞こえる。
撫子はこみ上げる笑いを抑えながら言った。
「ええ。
よろしくお願いします」