序章
これは生きることを否定され、それでも生きることを諦めなかった一人の少女の物語である。
少女の名前はリリー。
黒い髪に黒い瞳、綺麗な小麦色が特徴の部落に生まれ落ちた紅い髪に金色の瞳、雪のような肌を持った少女である。
故に彼女は生まれ落ちた瞬間から生きることを許されていないのだ。
村の住民は異端だ、悪魔の子だと叫び誰も近寄らない。
近づいてくるのは彼女の息の根を止めようとする者だけだった。
しかし、彼女は強大な力を持っていた。
物を動かしたりは勿論、世間一般にあり得ないことをやってのけるのだ。
それは後に魔法と呼ばれ、人々から恐れられるようになった。
そしてリリーは今日で12歳を迎える。
リリーの部落では成人を12歳とし、誕生日になると全員が成人の儀を受けるのだ。
それはリリーも例外ではなかった。
ただし、リリーの場合は今日の丑の刻に業火に焼かれて死ぬことになっている。
村人はだれひとり反対する者はいない。
リリーは悲しくなかった。
ただそこには何もなかった。
自分の事なのに何故か他人の事のように感じた。
時間がきた。
いつものようにボロボロの服に純銀の鎖で繋がれたリリーは広場に建てられた十字架に吊るされた。
リリーは嬉しかった。
自分だけのために村人が作ってくれた十字架。
今までにない特別な贈り物。
火がつけられた。
足が燃える、熱い、痛い、苦しい。
肉が焼ける、肌が爛れる、臭いが鼻を刺す、痛い痛い痛い熱い。
突然巻き起こる生きたいという気持ち。
まるでうち上がる無数の打ち上げ花火のように次々と本能が叫ぶ。
熱い痛い痛い苦しい熱い熱い生きたい熱い痛い痛い生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい!
瞬間、村を包み込んだ爆発。
村全体が荒野になり、一瞬にしてすべてが無くなったのだ。
ただひとり、リリーを残して。
リリーは笑った。
生きた、生き延びた。
村の縛りも周りの眼も何もない。
ただただ嬉しかった。
リリーは自身を見た。
先程の爆発で拘束は逃れたものの、火にくべられていた膝から下は見るに絶えない。
リリーは笑った。
両足をひとなですると元の足に戻った。
痛む場所全てをなぞった。
綺麗な体に戻った。
そしてリリーはまた笑った。
そんな少女の物語。