嫌われようとも(ユースケ視点)
控えめなノックが俺の部屋に響く。
扉を開けると、フィーとルミナスが立っていた。
ルミナスはフィーが戻ってから片時も離れたくないかのように、ベッタリとくっついている。
(当然か…)
契約主をなくした精霊は狂ってしまうことが多い。
絆と双方の思いが強ければ強いほど、その可能性は上がる。
感情があり、意思の疎通も難なく出来る高位精霊たるルミナスだが、契約主を持ったのは初めてなのだ。想像しなくとも末路はわかるというものだろう。
ルミナスの様子に苦笑しながら、「どうかしたか?」と部屋を訪ねた理由を聞けば、フィーは「何でもない!」と言って走り去ってしまった。
「苛めてるみたいでやだな…」
フィーの走り去った後を見ながらポツリと呟けば、部屋の中にいるカイルが不思議そうな顔をした。
「何か言ったか?それに今フィーの声が聞こえたようだが。」
「ああ、なんでもねぇよ。」
「そうか。」
納得いってないようなカイルを無理矢理黙らせ、部屋に戻り椅子に腰かけた。
ひとまずフィーの話を聞かなくて済んだことにホッと胸を撫で下ろす。
フィーが話せない状況を作るために、カイルを自室に招いたのだ。
そう、俺にはフィーが考えていることがわかっていた。
その為に俺へ相談するであろうことも、取ろうとしている行動もだ。
だてに長い時間を共に過ごしていない。
俺だって一人の男だ。
いくら想いを告げないと決めたとしても、フィーへの想いを自覚した今、首を縦に振らない自信がない。
卑怯と言われようが、弱いと言われようが、決意を固める時間が必要だった。
その為にカイルを使うような形になってしまった。
部屋へ戻るというカイルを見送り、俺は自室の天井をあおぎ見る。
「フィー、お前の考えは理想でしかないんだよ。叶うことは万に一つもありえないんだ。」
口に出してしまえば一気に現実味を帯びた。
恐らく、フィーは魔族に触れ、分かりあえると感じたのだろう。
でもそれは、フィーが魔族になっていたからだ。
マテスは魔族と人間は相容れないと言った。
一度殺して蘇生すれば人間に戻れると聞いた俺が「なら魔族も戻れんのか?」と尋ねたら、キッパリと否定したのだ。
曰く、「魔族は生まれたときから魔族なので、蘇生しても魔族にしかなりえません」とのこと。
しかも、ご丁寧に「憎しみを心に植え付けた魔族はこの世界を破滅に追いやるでしょう」との説明つきでだ。
未来視が出来るマテスの言葉は信憑性がかなり高い。
「フィー、ごめんな。結局俺達は神だかなんだかの掌の上で踊ることしかできねぇんだよ。」
目を閉じて一人呟いた言葉が自らの胸を抉り、フィーの悲しそうな顔が目の裏に焼き付いて、更に深く胸が痛んだ。
それでもリーダーとして、危険の中に仲間を投げ入れることは出来ない。
嫌われようと、責められようと、もう二度と手放してはいけないものが確かに存在する限りは…




