晩餐会
会場である大ホールに入った途端、沢山の目が私達へと向けられた。
その視線にたじろぎながらも、中へと進む。
(平常心、平常心)
呪文のように自分の足を動かす言葉を考えながら歩き進めば、ホールの奥へとたどり着いた。
そこにはひときわ豪華な椅子に国王様と皇女であるアリア様が座っていた。
国王様の隣には優しそうな美人が座っており、アリア様の隣には、これまたイケメンの男性が座っている。
状況的に考えて、王妃様と第一皇子とみて間違いないだろう。
国王様は私達に気付くと、ゆっくりと腰をあげた。
他の三人もそれに続く。
悪魔…もといミリアさんに教わったように、ドレスの裾を軽く持ち上げるように礼をすれば、他の皆も同じようにしているのが横目で窺えた。
男性陣までは見えないが、貴族であるカイルがいることだし、最悪カイルの真似をすれば大丈夫だろう。
「面をあげよ!」
大ホールでも響き渡る声で国王が一言口に出せば、周りの雰囲気が少し緩むのを感じた。
「この者達は二度にもわたりこの国を救ってくれた恩人である。今日はそれを称え、感謝の意を伝えるための晩餐会である。今夜は無礼講だ。皆の者!楽しんでいくがよい!」
わあっ!と歓声があがったかと思ったら、音楽が始まった。
何人かがダンスを踊り始めたのを見ながら、私はというと…国王様が関西弁じゃない事に、軽い衝撃を受けつつ呆けていた。
「そこの綺麗なお嬢さん、私と踊っていたどけないでしょうか?」
「いえ、是非とも私と!」
横から声が聞こえたのでそちらを向くと、品の良さそうな男性が二人、私に手を差し出していた。
(綺麗なお嬢さん?え!?私?!)
社交辞令だとわかっていても、面と向かってそう言われると照れる。
しかも、声を掛けられるまで私は呆けて口をポカンと開けたアホ面を晒していたはずだ。
(ダンスなんて踊れないよー、どうしよう‥…)
照れと恥ずかしさで熱が集まる顔で困惑していると、後ろから声がかかる。
「こらこら、困らせてはいけないよ。フィーさんだったかな?是非私と少しお話を…」
(ひぃー!また増えた!しかも皇子だし!この人、絶対腹黒属性だしぃー!)
最初に声を掛けていた二人は皇子の登場でそそくさと退散していった。
にこにこと微笑む皇子は有無を言わせぬ迫力がある。
チラリと回りを見渡しても、助けてくれそうな人はいない。
リリスと姐御は男性に囲まれているし、ルミナスは可愛いもの好きと思われるご婦人方に揉みくちゃにされていた。
その間にも腹黒皇子の笑顔の圧力が強まっている気がする。
断らないよなぁ?と言われているようで、乾いた笑みがこぼれる。
そんな時、天の助けが現れた。
カイルだ。
「おい、フィーが困ってるじゃないか。いい加減にしろよ。」
皇子に対しての呆れたような物言いに、私は首をかしげる。
(え?不敬罪じゃないの?でも皇子も気にした様子はないし…)
不思議そうな顔をしているのを見て、カイルは説明しようと口を開こうとした。
だが、腹黒皇子がそれを遮って口を開いた。
「カイルと僕は学友でね。年も同じだから仲がいいんだ。まぁ、幼馴染みってやつだね。」
「そういうことだ。いくら幼馴染みのお前と言えどフィーに手を出そうとするなら容赦はしないぞ。」
「あれ?…ふぅーん、そうなんだ。ついにねぇ……でも残念。僕もフィーちゃん気に入っちゃった。」
「なんだと!?表でゆっくり話をしようか!」
「のぞむところだね!」
なんだかよくわからない会話がなされて、二人は庭園の方へと歩いていってしまった。
ポカンと本日二度目のアホ面を晒した後、私は折角なので晩餐会を楽しむことにした。
コルセットは相変わらずキツいが、テーブルに並んでいる美味しそうな料理の誘惑には勝てない。
といぅか、あまりにも現実だと思えない現状に、頭の中がショートしたとも言える。
もうどうにでもなぁれ!だ。
何故か皇子と共にどこかへ行ってしまったカイル。
ご婦人方に取り囲まれて迫られているユースケ。
一際目立つ神官服で子供の相手をしているルマンさん。
男性に囲まれながら、うっとりと赤ワインを飲んでいるリリス。
何故か近付いている男性が子分のように見えてしまう姐御。
そして揉みくちゃにされる精霊王二人。
なんだこの混沌。
おおよそ、そんな感じで晩餐会は続いていた。




