国王との再会
「おう!大変やったな!今回はありがとうっちゅーことで晩餐会を開こうと思うんやけど。」
私達が部屋を出て、向かった先は国王の執務室。
執務室へ入った途端、片手を上げた国王様からそんな言葉が飛び出す。
以前はカイルのお父さんがいた場所がぽっかりと空いてしまっているのに胸が痛んだ。
それはそうと、国のトップである国王様の軽すぎる態度といい、私達がここへ着くまでに、廊下ですれ違った騎士の人や侍女らしき人のにこやかな態度といい、国の要である王城だということを忘れそうになるくらいだ。
これでいいのかこの国…と呆れや不安を感じたのは私だけではなかったようで、他の面々も微妙な顔をしている。
カイル以外、一介の冒険者か冒険者ですらない者の集まりだというのに、王城の中を自由に動き、更には誰からも止められることなく、国王様の執務室へ辿り着けるのがそもそもおかしい。
閑話休題
「晩餐会…ですか?」
「そうや。まぁ、ちょっとしたパーティーみたいなもんやな。目が覚めたばっかのフィーちゃんとカイル坊には悪いんやけど、騒ぎを聞き付けた貴族達がうるさくてなぁ。シリウスの時の事に加えて今回やからなぁ…」
私が聞き返せば、国王様が困ったような顔で答える。
いくら早朝とはいえ、確かに王都の正門前でドッカンバッカンやってれば国民の耳に入ったことだろう。
混乱を避けるために事情を説明したらしいのだが、それが仇となったようだ。
「パーティーはいいんだが、本当の事情を話したのか?」
ユースケがそう聞けば、他の面々から殺気のこもった視線が国王様へと向けられた。
本当の事情とは、私が魔族に操られていたということだろう。
私が居たたまれなくなって俯くと、焦ったような国王様の声が聞こえてきた。
「ちゃうちゃう!俺がそんな男に見えるんか?国を救ってくれた恩人達にそんなことはせぇへん!今回の事は『強大な魔物を撃ち破った』としか伝えてへんよ!」
「そう。ならいいよ。」
姐御の許しの言葉と共に、濃厚な殺気が霧散する。
それにほっと息を吐き出した国王様は、パーティーの詳細を伝えるべく口を開いた。
「全員で殺気込めんといてや。死ぬかと思ったわ!とにかく、晩餐会は明日や。今日はもう遅いから泊まっていき。部屋を用意させるわ。」
国王様の好意に甘えて、今日は王城で一泊することとなった。
「こちらがフィー様とルミナス様のお部屋でございます。何か御用がおありでしたらこちらのベルをお鳴らしください。すぐに参りますので。」
皆で軽く食事を済ませた後、客室と思われる部屋に案内してくれたのは侍女である。
ミリアさんというそうだ。
私に呼び鈴を渡し、部屋を出ていくミリアさんにお礼を言って後ろ姿を見送った後、だらりとベッドにうつ伏せで転がった。
「はぁー、なんか疲れたね、ルミナス。」
「そうでもないのじゃ。妾は主様とまたこうして居られる事が嬉しくて胸がいっぱいなのじゃ!」
日本に居るとき、庶民も庶民、むしろ、庶民よりも下である生活を送っていた身としては、侍女さんの丁寧な言葉遣いに恐縮してしまう。
精神的に、どっと疲れが出たところでルミナスに問えば、嬉しい返事が返ってきた。
「んもー、ルミナス可愛いんだから!!」
嬉しくなってルミナスを撫で回してしまったのは仕方ないことだと思う。
私が眠っていたのは半日程だったらしいので、もう深夜だ。
ルミナスとじゃれながらも夜は更けていく。
そのときの私は、まさか明日あんな苦痛を強いられる事があるとは予想だにしていなかった。




