道中
王都へ向かう馬車の中、エルダーさんと向かい合って座っている。
馬車の窓から外を見ると、右手に森、左手には草原が広がっていた。
日はだいぶ傾き、草原を茜色に染めていた。これまで、魔物や盗賊の襲撃もなく、平和な時間が続いている。
街を出てすぐに、外で護衛の手伝いをしたいと申し出たのだが、冒険者メンバーとエルダー商会の方々全員に口を揃えて休んでいるようにと言われては、大人しく馬車の中にいることしかできない。
「(うぅ、お尻が痛い)」
現代日本で生活していた私にとって、ガタゴト揺れる馬車の揺れには慣れていない。
痛みに耐えるべく、モゾモゾ動いて痛みを拡散させていると、
「どうかなさいましたかな?」
と心配そうな顔でエルダーさんが尋ねてくる。
お尻が痛いんです!と大声で言いたい所だが、流石にそれは恥ずかしい。
「えっと、馬車に慣れていないので」
答えにならないような答えを言うと、エルダーさんは合点がいったというような顔で
「それでは少し早いですが、今日の夜営の場所を探しましょうか。おーい、そろそろ夜営出来る場所まで移動してくれるか?」
と、外にいる護衛のメンバーに声を掛けてくれた。
なんだか、申し訳無くなってすみませんと謝ると、
「なに、これ以上進むと、丘のある場所に差し掛かります。そこはこちらからは死角が多いため、盗賊の奇襲場所になりやすいのですよ。その前に夜営の場所を決めて置こうというわけですから、お気になさらないで下さい。」
と笑顔で言われた。
暫くたつと、馬車が止まる。窓から外を覗くと、どうやら森の出口らしい。
「今日はここで夜営をするぞ!準備を始めてくれ!」
外からカイルの声が聞こえてきた。エルダーさんに一言断ってから外に出ると、冒険者メンバーがせわしなく準備に動いている。そこで食事の準備をしようとしているリクルさんを見つけて側に近づいた。
「リクルさん、お疲れ様です。あの、食事の用意なんですけど、私にやらせてもらえないですか?」
リクルさんは少しびっくりした顔をしたあと、
「いいのかい?それなら僕と一緒に作ろうか。それじゃあ僕は薪を探してくるよ。」
と笑顔で答え、森の方へ薪を探しに行った。
流石に何もせずにお世話になっているだけではあまりにも申し訳無い。都合の良い事に料理は得意だ。リアルでは一人暮らしだったため、もちろんのこと、ゲーム内でも空腹を感じる仕様になっている為、少しでも美味しいものを食べられるように料理スキルは上げてある。頑張って美味しいものを作ろうと、ひとり意気込んでいると、リクルさんが両腕一杯に薪を抱えて帰ってきた。
「フィーちゃん、こっちで火はおこすから、そこの材料を使って食事の準備をしてもらえるかな?」
と私の後ろにある大きな箱を指差した。
正直、リクルさんの申し出にはホッとする。なぜなら、私が魔法で火を出すと、一番下級のファイアでさえ、山火事になってしまう。
リクルさんを見ると、火をおこして、鍋に魔法を使って水を入れていた。
「わかりました。じゃあ、材料使わせて貰いますね。」
箱から野菜と干し肉を出して下ごしらえをする。今日のメニューはシチューと、デザートに林檎のようなもののパイだ。
鍋に野菜と干し肉を入れて煮込む。錬金のスキルで作った簡易オーブンで林檎のようなものを乗っけたパイ生地を焼いている間に、シチューの味付けをしていく。パイが焼ける頃にはシチューも出来上がっていた。パイを切り分けて、シチューを皿に盛ると、いつの間にか、皆が集まっていた。
「フィーが作ったのか。旨そうだ!よし、みんな頂くぞ!」
カイルの言葉と同時に皆が一斉に食べ始める。
「うめぇ」
「なんだこれ、こんな旨いシチューは初めてだ!」
「このパイも最高ね。」
「夜営でこんな旨いもん食えると思わなかったぜ!」
皆が口々に料理を誉めてくれる。
嬉しくなって、
「沢山作ったのでお代わりありますから、どんどん食べてくたさい」
と言うと、今まで黙っていたエルダーさんが、
「お代わり良いですかな?」
と皿を出してきたので思わず笑ってしまった。
沢山作ったシチューもパイもすっかりなくなって、和やかな雰囲気で談笑している時だった。
見張りについている冒険者から、
「大変だ!魔物の群れだ!」
との声が掛かる。先程の和やかな雰囲気から一変、夜営地は一瞬にして緊張感に包まれた。
カイルが先行して確認に行っている間も、ピリピリした緊張感は続いていた。