目覚め(カイル視点)
誰かの泣き声が聞こえる。
それは段々と大きくなり、大切な人の声だとわかった。
(早く起きなければ!)
そう思うのに、体が動いてくれない。
焦りながら、やっとのことで動かした体を起こせば、フィーが泣いていた。
(自分を責めているのか)
すぐに気づいた。
俺は思っているよりもフィーの心に敏感らしい。
綺麗な紫色の瞳から溢れる涙を拭ってやりたくて、俺は大丈夫だと言ってやりたくて立ち上がり、フィーの元へと歩き出す。
フィー以外は俺が起きたことに気付いている。
どこに向かっているかも。
(くそ、頭がクラクラする。ここは‥.王城か?)
部屋を見渡すと豪華な装飾品が目に入り、王城の中の一室かとあたりをつける。
まだうまく動かすことのできない自分の体に苛立ちを感じた。
「フィー」
声をかければ、体をびくりと震わせこちらを向いたフィーと目が合う。
「か、カイル…私…」
怯えたように俺を見上げるフィーを見て、心がチクリと痛んだ。
(ああ、そんな顔をしないでくれ)
空気を読んでくれたのか、抱きついていたルミナスがそっとフィーから離れる。
それが合図だったかのように、俺はフィーを力強く抱き締めた。
「フィー、自分を責めなくていい。俺の傷だって残っていない。ほら!」
シャツを脱いで、刺された方の胸を見せれば、瞬く間に真っ赤になっていくフィー。
「かかか、カイルッッ!」
あわあわと手を忙しなく動かすフィーに全員から笑いが起きる。
場が和んだところで「おかえりフィー」と声をかければ、まだ固さは抜けていないもののふわりとフィーが微笑んだ。
「ありがとう。カイル。ただいま」
(ああ、フィーだ。俺の大切な…)
心が暖かいもので満ちていくのを感じる。
魂が喜びで震えている。
俺はまた手にすることが出来た感情にただ打ち震え、フィーを再び抱き締めたのだった。
「おい、カイル!いつまで主様に抱きついておる!さっさと離れるのじゃ!」
「そうですわよ!なんて羨まし…いや、はしたないですわ!」
幸せな時間は長くは続かなかった。
ルミナスが不満を溢せば、リリスが加勢に入る。
リリスから本音が駄々漏れなのは俺の気のせいだろうか?
首をかしげながら周りを見渡すと、ユースケと姐御、フレイがニヤニヤしながらこちらをみていた。
ルマンは「わかってますよ」と言わんばかりの微笑を浮かべている。
ルナに至っては、部屋の隅で「わたちだってしんぱいちたのに…」と言いながら拗ねていた。
改めて今の状況を考えると、自分がとても恥ずかしい行動を取っていることに気付いた。
赤面しながら腕をはなし、フィーを見ると同じくこちらも真っ赤になっている。
そんな様子がかわいくて、また抱き締めたい衝動をなんとか抑えながら、後ろ髪引かれる思いでその場から離れる。
「んじゃ、皆揃ったところで国王のおっさんに挨拶に行くか?」
「そのまま拠点に帰るんじゃないのか?」
「『お礼が言いたい』のだそうです。」
「律儀な事だよ。そんなのかまやしないのにねぇ?」
「そうか。」
ユースケの言葉に不思議に思って尋ねれば、ルマンと姐御が答える。
俺は部屋の隅に居るルナを抱き上げ、全員で部屋を後にした。
ちなみに、拗ねているルナを宥めるのに一時間もの時間を費やすことになろうとは、今はまだ知る由もない。




