目覚め
ふわりふわり
真っ白な空間に漂っている私。
(こういうのって幽体離脱っていうんだっけ?)
そんなことを考えていると声が聞こえてきた。
いや、頭に響いてきたという方が正しいのだろうか?
何故なら、その声は聞き覚えのあるものだったから。
『娘、戻ったか。』
(戻った?)
訳がわからず不思議そうな顔をしていると、不意に沢山の記憶が映像のように頭に流れ込んできた。
魔族になった私。
人間たちを殺そうとした私。
大切な仲間と戦った私。
カイルを…刺した私。
(こ…れ…私が…)
信じたくなかった。
でも分かる。この記憶は全て本物なのだと。
『娘、闇に呑まれるでない。お主を待っている者達がおる。それを忘れるな』
その声に俯いていた顔をあげれば、白い空間がスクリーン代わりとなって、現在の様子が映し出されていた。
横たわる私を、心配そうに覗き込むルミナスとフレイに、祈るように目を閉じているリリス。
ユースケや姐御、ルマンさんもいる。
隣には、カイルが横たわっているが、静かに上下する胸は生きているのだと分かる。
そのことにほっとし、私は静かに目を閉じた。
目を開ければ、そこは知らない場所だった。
それでも、さっき白い空間で見た映像とまったく変わらぬ様子に安堵する。
「主様!!」
私が目を覚ました事で飛び付いてきたルミナスを抱き止め、周りを見渡す。
カイルを除く全員が、ほっとした表情を浮かべていた。
「フィー、おかえり」
ユースケに笑顔で声をかけられ、涙が勝手に流れていくのを感じる。
「皆…私…」
罪悪感で何も言えずにいると、ルミナスの私を抱き締めている力が強くなった。
確かな温もりに心が楽になっていくのを感じた。
「皆、ごめんね。ありがとう」
私の泣き笑いのような不細工な笑顔に、皆は眩しい笑顔でこたえてくれたのだった。
「フィー、お前、覚えてんのか?」
私が横たわるカイルを見ながら震えていると、ユースケが驚いたように尋ねてくる。
「覚えてる。…全部」
「そうか…魔族に操られてたんだ。お前のせいじゃない」
「そうですわ。お姉さまのせいでは…」
ユースケとリリスの言葉に、私は首を横にふる。
「ううん。私のせいだよ。私の弱さにつけこまれたんだから私のせい。」
拳を強く握りながら答える。
そうだ。
私の心がもっと強ければこんなことにはならなかった。
悔しさに涙が溢れる。
それなのに、魔族を憎みきれないのは何故だろう。
憎しみを持ちながらも、誰よりも愛を求めていたように見えたからだろうか?
そんなことを考えている私は、カイルの瞼がピクリと動いたことにも気付かず、ただただ自分を責めていた。




