作戦会議3(カイル視点)
フィーを殺す。
そんなことが俺達に出来るのだろうか。
マテスという男曰く、魔族になってしまった人間は死なない限り元には戻らないらしい。
「殺してもすぐ蘇生魔法で生き返らせれば良いのです。簡単なことです。そうすればフィーさんは元に戻りますよ。」
マテスという男は、そうのたまった。
全員が殺意を込めた視線を送る。
俺もその一人だ。
簡単だと?
仲間を一瞬でも死に至らしめるということがどういう事かわかっているのか?
俺に至っては、仲間なだけじゃない。
フィーは俺の愛する女だ。
そんな相手を手にかけることが出来るのだろうか?
俺は自分の手を見詰めて自問した。
いくら考えても答えがでない。
今、ここにいる仲間は全員がフィーを大切にしている。
誰も言葉を発しないところを見れば、俺と同じ気持ちなのだろう。
「私がやりますわ」
重い沈黙を破ったのは、少女の声だった。
確か、リリスと言ったか。
数日前に仲間として迎えた若い少女だ。
全員が驚いた顔でリリスをみる。
「お前、どういう意味かわかってんのか!?」
「そうだよ!あんた。フィーの事を姉のように慕っていたじゃないか!」
ユースケと姉御が詰め寄れば、リリスは若干怯んだように見えた。
それでも瞳にうつる決意の色は変わらない。
「私がお姉さまを殺します。だって、あの優しいお姉さまに二度と会えないなんて真っ平ですもの。」
「本当にいいんだな?」
「ええ、そのかわりといってはなんですが、恥ずかしながら私ではお姉さまに敵いません。なので、皆さまも戦ってください。止めは私が…」
ユースケが念を押すように尋ねれば、リリスは正面を向いてはっきりと答えた。
「よし、解った!皆も聞いたな?リリスがフィーに止めをさす。それまでは俺達も戦わなきゃならない。辛いのは皆同じだ。覚悟を決めろ!」
ユースケの言葉にそれぞれが了承の意を伝えたところで解散となった。
ユースケとルマンと姉御は、マテスという男と話があるようなのでホールに残し、俺は自室へと足を踏み入れた。
その途端、膝から崩れおちる。
部屋の扉に背を預け、目を閉じて想像する。
フィーと戦うことを。
フィーが死ぬところを。
胸が張り裂けそうに痛んだ。
叫びそうになる衝動を必死で押さえこむ。
俺がこんな気持ちで戦えば、皆に迷惑が掛かることはわかりきっている。
最悪、皆の命を危険に晒すかもしれない。
それだけは避けなければ…。
「ルナ、俺はどうすればいいんだろうな。」
ルナから返事はない。
不思議そうに首をかしげているだけだ。
それでも、言葉にしたことで少し気持ちが軽くなったような気がする。
ルナを抱き締めたまま、俺は眠りについた。
目が覚めた時には覚悟を決めなければならないと自分に言い聞かせながら。
決戦は近い。




