作戦会議1(ユースケ視点)
カイルを伴い、ルミナスと共に拠点へ戻ってきた。
親父さんの葬儀で見たカイルの顔は、魂が抜け落ちたようで、直視できるものではなかった。
俺は、ああいう顔を知ってる。
初めて会ったときのフィーがあんな顔をしていた。
何もかもを諦めて、人生に絶望しているかのような顔。
そんなフィーが痛々しかったのを思い出す。
長い時間を掛けて、やっと笑えるようになってきたのに…。
なぜ俺はその手を離してしまったんだろう。
二日前の夜の事を思い出して、拳を強く握った。
『あなたたち、だぁれ?』
そう言ったフィーが昔のフィーに重なって、違う人間に見えた。
瞳の色が違ったから…なんてのは言い訳にしかならない。
あの時、手を伸ばすのを躊躇した俺を、俺は一生許すことができないだろう。
それでも、前に進まなければならない。
ギルド員を守る役目であるギルマスとしても、仲間を取り返したい俺個人としても。
ホールには誰一人欠ける事なく、フィー以外の全員が揃って座っていた。
フィーの定位置であった椅子だけが空いているのを見て、苦いものがこみあげる。
カイルに腑抜けと言ったが、俺だってそう変わらない。
一人欠けただけで、こんなに心が乱されているのだから。
そうか、俺はフィーを『愛して』るんだ。
こんなときに気付くなんて…なんという皮肉だろう。
それでも、あの時、手を伸ばすのを躊躇った俺にフィーに想いを告げる資格なんてない。
気持ちに無理矢理蓋をして、俺は皆に向かって声を張り上げた。
「作戦会議だ!フィーを取り戻す!」
「まずはルマン、知ってることを全部話せ。予想でもいい。お前の魔族に関する知識、全てだ。」
俺のその一言でフィー奪還の作戦会議が始まった。
「はい。私が知ってることといえば、魔族が闇魔法を使えることでしょうか?後は…ゲームのサービス終了の直前に、何者かから装置にハッキングを受けました。」
「ハッキングされて奪われた情報は?」
「ゲーム参加者の個人データです」
「は?個人データ?」
「はい。ユーザーの生い立ちから全ての情報です」
何のために個人データをハッキングした?
駄目だ。意味がわからない。
頭を抱える俺達の元へ光が差した。
眩しくて目が開けていられない程の光が。
俺が管理している拠点で何が起きた?
パニックになりながらも、光が収束した場所に目を向ければ、そこには一人の男が立っていた。
長い金色の髪に薄いブルーの瞳の色は神々しいくらいの光を放っている。
見とれそうになりながらも、全員が咄嗟に武器を構え、警戒をする。
そんな俺達に男は害意がないのを示すかのように、両手を挙げて言った。
「始めまして。私はセルフィス様に言われて参りました、マテスと申します。以後お見知りおきを。」
にこやかに微笑む害意の欠片もなさそうな男に、俺達が困惑していると、ルマンが震える声で呟いた。
「男神セルフィスの腹心マテス…」
静かなホールに、その声は予想以上に響き、マテスと呼ばれた男はにっこりと笑みを深めた。




