それぞれの決断
憎い。憎い。憎い!!
感情が憎しみに支配される。
ふと不思議なことに気付いた。
あれ?私ってなにを憎んでいるんだっけ?
わからない。何も。
何か大切な物を忘れている気がする。
思い出そうとすると、酷く頭が痛む。
だから…今わかることから片付けていこう。
そうすれば、わからないことも思い出せるかもしれない。
そうときまればまずは…人間の皆殺しからだ。
私は城の玉座で含み笑いをもらした。
「ふふっ」
「王、どうかなさいましたか?」
臣下の一人が私を見て不思議そうな顔をする。
名前は…なんだっけ?
ああ、サディスだ。
私をここへ連れてきてくれた人。
「サディス、何でもないの。楽しみで少し笑っちゃった。」
「失礼ながら楽しみとは?」
「やだなぁ、人間を皆殺しにすることに決まってるじゃない!」
「そうでございますか。私も楽しみでございます」
私の言葉を聞いたサディスがにっこりと微笑む。
それに満足した私は玉座から降りて後ろに控えている二名にも聞こえるように言った。
「まずは王都から落とすよ!決行は三日後の夜明け。わかった?」
「「「はっ!御意に!」」」
返事を聞いた私は玉座の上で静かに目を閉じた。
王都がおちる様を想像しながら…。
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Side カイル
「なぜフィーが?」
俺は父の亡骸の前で一人呟く。
あれからユースケが転移を発動させ、王都へ戻ってきた。
ルミナスに父の遺体を認識できないものにしてもらってから、真っ先に自宅へと戻る。
冷たくなってしまった父の体を母はずっと抱き締めていた。
クリスやマイケルは涙を流して、その様子を見ていた。
俺はそんな家族の様子を見ても、涙すら出なかった。
薄情ものなのかもしれない。
だが、フィーが俺に向かって言った言葉がずっと頭から離れない。
『あなたたちだぁれ?』
そんな一言だけで心が空っぽになってしまった俺は、本当に弱いのかもしれない。
次の日、葬儀が執り行われた。
貴族の家にしては慎ましやかなものだ。
なぜなら、死亡の理由を隠しておきたいから。
いや、誰に殺されたかを隠したいのだ。
魔族のことがバレれば国はパニックになる。
それを避けるためだけに、父は最低限の人数に見送られ、空へと召された。
「カイル…」
参列者が帰るのをボーッと眺めていた俺に、背後から声がかかる。
振り向くと、そこにはユースケとルミナスがいた。
どうやら他の面々は俺との付き合いが短いからと、俺を気遣って来なかったようだ。
「ユースケ、ルミナス来てくれたのか。」
俺が作った笑顔でそう言えば、二人とも顔をしかめた。
「おい、カイル!お前いつからそんな腑抜けになった!?」
「は?どういう…」
「ユースケ殿の言っていることがわからんのか?主様を奪われた悲しみや悔しさは、妾とて感じておる!他の者だってそうじゃ!だが、お前のような腑抜けた顔をしておる者は一人もおらん!気合いを入れるのじゃカイル、父を失い、主様まで失ったままで本当に良いのか?」
頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。
そうだ。
俺はなぜ諦めた?
フィーが魔族と共に行ってしまったなら追いかければいい。
俺達を忘れているなら思い出させればいい。
思い出さなくても、また一から始めればいいだけだ。
何でこんなことも思い付かなかったのか?
俺には仲間がいる。
気持ちを同じくしている仲間が。
「ユースケ、ルミナス、目が覚めた。ありがとう。早速、作戦をたてよう!」
俺がそう言えば、二人が頷く。
腰にいるルナを見れば、どこか嬉しそうに俺にしがみついてくる。
ルナの頭を撫でながら俺は、すでに参列者が誰もいなくなった自宅から、ユースケの転移で、拠点へと移動した。
決意を胸に抱きながら。
Side Out
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Sideサイファス
「やはりこうなってしまったか…」
「はい。サイファス様、いかがなさいますか?」
「元は魔族側が求め、こちらへと呼んだ人間。だが、今の彼女の心は、昔のように暗闇だけではない。早急に手配をし、人へと戻せ。」
「もし戻らなかった場合は?」
「その場で殺せ」
「はい、承知しました。」
側近が部屋を出ていったのを確認したサイファスは一人呟いた。
「人間の娘よ。闇に身を預けるな」
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